本課題は、これまでごく一部の広葉樹において水分通導に寄与する辺材部の道管相互間の壁孔壁に常在することが確認されている抽出成分について、(1)その化学組成を解明すること、(2)どのような植物群に存在するのかを明らかにすること、(3)立木木部内における通水制御にどのように関与しているかを解明すること、を目的にしている。最終年度(H25年度)は、項目(1)(3)について優先的に進め、(2)についても引き続き検討を進めた。(1)に関しては、前年度までの研究により抽出成分が存在することが明らかになっており、なおかつ道管相互壁孔が頻出しそのサイズも大きいゆえ解析しやすいことから、オニグルミとシナノキを試料として用い、組織化学的な検討を新たに実施した。糖染色や脂質染色、あるいはポリフェノールの存否を検討するために顕微分光光度計による紫外線吸収スペクトルの測定を試みたが、抽出処理前後のサンプル間で明瞭な違いが観察されなかった。(3)に関しては、"single vessel method"により道管相互壁孔の通水性(または通水抵抗)をより直接的に計測することを試みた。項目(2)に関しては、この抽出成分の存否がどのような分類単位で決まっているのかを検討するため、新たに8樹種について抽出成分の存否を調べた。その結果、カバノキ科の中ではカバノキ属には存在するがアサダ属には存在しなかった。このことから、抽出成分の存否は科レベルで共通する形質ではなく、属以下のレベルで存否が異なる形質であることが明らかになった。
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