研究課題/領域番号 |
23580228
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
寺本 好邦 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40415716)
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キーワード | セルロース / 分子修飾 / 配向制御 / 機能材料 |
研究概要 |
セルロース誘導体の中でも工業的に重要なセルロースアセテート(CA)とシアノエチルセルロース(CyEC)を対象として,分子修飾とプロセッシングにより,光学的および電気的機能材料として,それぞれゼロ複屈折並びに高誘電材料に変換するための試料調製と測定・解析を行い,以下の成果を得た。 1. ゼロ複屈折材料 置換度(DS)が2.15のCAにポリメタクリル酸メチル(PMMA)をグラフトした共重合体のモル置換度,枝密度,および枝鎖長を定量した。各共重合体の溶液キャストフィルムの一軸熱延伸試料について,未修飾CAフィルムやマクロ開始剤が有する正の配向複屈折が,枝鎖含有率の増大により低下し,枝鎖を~60 wt%含むグラフト体では負の複屈折性を発現することを見出した。この結果は,共に光学部材として用いられるCAとPMMAの組み合わせのグラフト共重合体の微細構造設計により,本質的にゼロ複屈折材料を与え得ることを示している。 2. 高誘電材料 CyECを直鎖アルカン酸エステル化した誘導体フィルムについて,延伸プロセスによる分子・セグメント配向に伴う高次構造と誘電ダイナミクスの変化を調査した。フィルムの%ひずみ(γ)に応じて,分極率異方性単位,官能基,および微結晶が配向する様子が観られた。エステル側鎖炭素数nに対するCyECおよびステアリル化誘導体(C18Es-CyEC)の延伸フィルムの比誘電率(ε': 25℃, 1 kHz)を,未延伸フィルムのそれと比較した。未延伸フィルムでは,エステル化による双極子密度の減少に伴ってε' は低下する一方,γが増加すると,CyECのε' は減少,C18Es-CyECでは増大した。一軸延伸によるε' の増減は,分子・セグメント配向に伴う双極子周りの微細構造および極性コンホメーションの違いを反映した誘電ダイナミクスの変化によるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光学機能材料については,延伸に伴う分子配向性と光学異方性の評価を詳細に行い,微細構造の制御によってゼロ複屈折材料創製が可能であることを見出している。当該テーマについて国際会議で報告し,原著論文投稿に持ち込めたことから,きわめて順調に進展しているといえる。電気的機能材料については,CyECならびにその誘導体の分子構造と分子・セグメント配向の評価を詳しく行い,延伸フィルムの誘電特性の延伸倍率依存性が未修飾/修飾CyECとで逆の傾向を示すことを発見した。CyECの熱可塑化と高誘電化のための指針を得られつつあることから,こちらもきわめて順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
光学機能材料に関しては,既に調製が成功したグラフト共重合体について,微細構造並びに光学特性の精密評価を引き続き行うと共に,光学異方性をより微細に制御できる分子設計を行う。電気的機能材料に関しては,CyECならびにその誘導体の濃厚溶液が示すリオトロピック液晶性を活かして,熱延伸だけでなく剪断印加による配向制御を試み,高誘電体を得るためのプロセッシング法の開発を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度と同様に,薬品類,ガラス器具類等の消耗品と,国際会議出張旅費を含めた成果発表費用に使用する。
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