研究課題/領域番号 |
23580233
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
川田 俊成 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (40214655)
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キーワード | 交互共重合セルロース誘導体 / セルロース誘導体 / セルロース・ナノファイバー / 固体表面反応 |
研究概要 |
本研究は、セルロース・ナノファイバーの表面一層に対する反応を行うことにより、その表面一層を剥離して2種類の異なった置換様式を有するグルコース残基が交互に配列する新規セルロース誘導体を調製することを目的として実施している。平成24年度は、まず、平成23年度までに調製したセルロース・ナノファイバーの表面反応をより詳細に検討した。 即ち、表面TEMPO酸化後古典的エステル化を施したセルロース・ナノファイバーについて、(1)表面分子の剥離方法、(2)表面分子の重量、(3)表面分子の構造の詳細な検討を行った。(1)について、NaOH水溶液で処理して剥離させる方法について、前年度までに開発した分析方法を用いて検討した。その結果、反応温度は80℃以下では剥離しないこと、及び還流温度(約105℃)で6時間以下の処理では完全に剥離しないことを見出した。(2)このとき、剥離された分子の重量を測定し、剥離前のセルロース・ナノファーバー誘導体の重量に対する百分率を求め、これから「表面重量割合」を算出した。セルロース・ナノファイバー誘導体の断面を考えるとき、表面1層の分子数と断面積には一定の関係がある。これらのことと上記(1)の方法とを連関させ、「表面重量割合」を算出することで、もとの剥離前のセルロース・ナノファイバーのおおよその断面積の推定を行った。さらに(3)剥離した表面分子の詳細な構造解析を実施した。その結果、新規交互共重合セルロース誘導体の生成を証明するセロビオース誘導体(セロビオースの2個のグルコース残基のうち1個がグルクロン酸メチルエステル誘導体残基になった化合物)を単離することができた。一方、この他に種々のラクタム型糖類が検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度に予定していた、新規交互共重合セルロース誘導体の生成は確認できたものの、良い収率で得ることを達成できなかった。この要因として、表面1層分子の剥離方法について、一定の方法を確立したとはいえ、依然として解重合反応、副反応が予想よりも大きい割合で見られたこと、また、調製したセルロース・ナノファイバーの表面の均一性が不十分であったことが考えられる。 さらに、調製したセルロース・ナノファイバーの断面サイズの推定は、原子間力顕微鏡による観察、あるいは平成24年度に確立した「表面重量割合」を利用する方法などにより、複数の手法を確立できた。一方、セルロース・ナノファイバーの長さ、あるいは重合度を推定する必要があるが、この点については未検討のままである。
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今後の研究の推進方策 |
初心にかえり、まず、表面が均一かつ断面積サイズがなるべく単分散に近いセルロース・ナノファイバーの調製法について再度見直す。具体的には、石臼、小型ミル、ホモジナイザー各種など、可能な方法を全て試す予定である。これらの方法でも均一なサイズのセルロース・ナノファーバーが得られない場合、遠心分離機により一定サイズのファイバーを分離して使用することも視野に入れる。 つぎに、表面1分子層を剥離する方法として、より穏和な方法を検討する。化学的方法だけでなく、物理的方法として、例えば超音波照射などの方法、および、化学的方法と物理的方法を組み合わせる方法について、網羅的に検討を急ぐ。この際、TEMPO酸化セルロース・ナノファイバーへの表面反応は、第一段階ではこれまでにすでに確立したメチルエステル化反応に絞る。剥離の容易さは、表面1分子層に導入する機能性基の性質に大きく影響されることが予想される。従って、メチルエステル化後の最適剥離条件を見出した後、第2段階として、エステルの炭素鎖を徐々に増加させていく実験を行う予定である。 調製したセルロース・ナノファイバーの長さ(重合度)を推定する方法として、粘度法による方法を実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費として、表面剥離の条件を精密に制御するために、シリンジポンプ(注入速度=0.11μL/分程度)、ミクロ天秤(最小秤量=0.1μg程度)の他、実験に必要な試薬・溶媒類、ガラス器具類などに使用する計画である。旅費として、2回の学会発表を予定しており、これに使用する。人件費・謝金の使用予定はない。その他として、論文発表費用、学会参加費用などの支出を予定している。
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