研究課題/領域番号 |
23580235
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
板倉 修司 近畿大学, 農学部, 教授 (60257988)
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キーワード | シロアリ / マイクロサテライト / コロニー構造 |
研究概要 |
昨年度はマイクロサテライト遺伝子座増幅用プライマー対4組を用いたPCR増幅産物をポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)によって分析した結果に基づいてアメリカカンザイシロアリのコロニー構造を解析した。ここで用いたPAGEでのマイクロサテライト遺伝子座の大きさ(塩基長)の読み取り精度は数十塩基長であった。今年度,キャピラリー電気泳動装置が新たに導入され一塩基長の差の識別が可能となったので,より詳細なコロニー構造を明らかにするため,キャピラリー電気泳動による再解析を行った。 被害小屋の「垂木」(200 cm)から25 cm長で切断した8部材,ならびに「胴差し」(275 cm)から25 cm長で切断した11部材から採集した擬職蟻の頭部から抽出し,冷凍保管していたゲノムDNAを試料とした。これらのゲノムDNAを鋳型とし,蛍光(FAM,VIC,NED,PET)標識した4組のアメリカカンザイシロアリ用マイクロサテライト遺伝子座増幅用のプライマー対を用いてPCR増幅を行った。増幅産物の塩基長をABI PRISM 3130 Genetic Analyzerで読取り,Genetic Date Analysisを用いて解析した。 遺伝子座あたりの平均対立遺伝子数が,胴差しと垂木でともに4よりも大きな値となった。さらに,垂木の1部材では平均対立遺伝子数が6.25であった。2倍体の王と2倍体の女王の子の集団であれば,遺伝子座あたりの対立遺伝子数は最大で4となるので,胴差しには3頭以上の生殖虫の存在が,垂木には4頭以上の生殖虫の存在が示唆される。しかし,実際に被害部材から採集された生殖虫の数は,胴差しでは0頭,垂木では2頭であった。擬職蟻を採集した被害部材に隣接する他の被害部材に生殖虫が生存していること,また1対以上の生殖虫ペアが存在しコロニーの融合が起こっている可能性があることが推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,新たに導入されたキャピラリー電気泳動装置によるアメリカカンザイシロアリのマイクロサテライト遺伝子座に関する詳細な再解析を行った。この再解析を行ったことで,解析に要する時間が当初予定よりも大幅に増加したため,計画の進行がやや遅れてしまった。しかし,キャピラリー電気泳動では一塩基長の違いを判別できるため,より詳細なコロニー構造の解析が可能となった。 再解析の結果,コロニー間の関係を表す系統樹については,昨年度PAGEで得られた系統樹と今年度キャピラリー電気泳動で得られた系統樹の間には,枝長の違いなど小さな相違点が認められるものの,群の相対的な関係には大きな変動がないことが確かめられた。 一方で,コロニー間の類縁度を表す近交係数の値やヘテロ接合体率の値には大きな違いが認められた。具体的には,昨年度のPAGEの結果に基づく解析では,近交係数の値が高く,ヘテロ接合体率の値は低かったのに対し,今年度のキャピラリー電気泳動の結果に基づく解析では正反対の傾向が認められ,近交係数の値が低く,ヘテロ接合体率の値が高かった。今年度得られた解析結果は,アメリカカンザイシロアリが近親交配でなく任意交配を行っていることを示唆している。この傾向はこれまでに報告されている他のシロアリとは異なっていた。例えば,地下生息性シロアリであるReticulitermes属や湿材シロアリであるZootermopsis属などと比較して,乾材シロアリに属するアメリカカンザイシロアリでは近交係数の値が低く,またヘテロ接合体率の値が高かった。 今回実験に使用したアメリカカンザイシロアリのコロニーが限られた地域に隔離され,他地域に生息するアメリカカンザイシロアリのコロニーと交配する可能性がないことから,任意交配という上述の結果はアメリカカンザイシロアリでは遺伝子座の組み換えが高頻度で起こっていることを示唆している。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカカンザイシロアリの被害を受けている小屋の建築部材に存在するコロニー間の類縁度を基に,アメリカカンザイシロアリの家屋への侵入経路ならびに家屋内での拡散経路を推定する。 ヤマトシロアリやイエシロアリの様な地下生息性シロアリであれば床下への薬剤処理で駆除が可能であるが,アメリカカンザイシロアリは床下以外からの侵入が想定され,居住者の生活する居室や天井裏などへの薬剤処理が想定される。居住空間へ蒸気圧をもつ薬剤を散布・塗布・注入すると,居住者に吸入され健康被害が生じる恐れがあるため,蒸気圧をもたない薬剤,具体的には,ホウ酸塩類を用いたアメリカカンザイシロアリの駆除方法を検討する。具体的には,ホウ酸塩類によるアメリカカンザイシロアリの致死量を確定する。この際,木材に含有される自由水を吸収せずに長期間生存できるというアメリカカンザイシロアリの生態を考慮した試験方法が必要となる。注入薬剤を対象とした現行の試験方法では,薬剤処理した木材とともにアメリカカンザイシロアリの擬職蟻を42日間飼育した際の死虫率を求めているが,この試験期間ではアメリカカンザイシロアリが薬剤を摂食しないケースが考えられる。特に蒸気圧をもたないホウ酸塩類の場合,気体としての薬剤の吸入が起こらないため,アメリカカンザイシロアリが経口で薬剤を摂取するまでさらに長期間飼育し薬剤の効果を確かめる必要がある。実際には,ホウ酸塩類で処理した木材とともに,アメリカカンザイシロアリ擬職蟻を90日間飼育し,致死量を求める予定である。 得られた結果を,和歌山県南部のアメリカカンザイシロアリ生息地域での防除・駆除に応用できるよう,被害地域の住民ならびに被害地域を担当しているシロアリ駆除事業者に情報を開示する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
ホウ酸塩類の致死量測定に供試するアメリカカンザイシロアリを入手するため,アメリカカンザイシロアリ被害部材を購入する。 アメリカカンザイシロアリ被害地域を訪問するための旅費に使用する。 研究成果を論文投稿するための費用を支出する。
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