研究課題/領域番号 |
23580236
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
山根 千弘 神戸女子大学, 家政学部, 教授 (70368489)
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研究分担者 |
岡島 邦彦 徳島文理大学, 理工学部, 教授 (30389168)
上田 一義 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40223458)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | セルロース / 再生セルロース / 分子動力学計算 |
研究概要 |
木質パルプを水酸化ナトリウム水溶液に溶解する技術を見出し,世界で始めて法的に可食なセルロース成形体が調製可能になったが,食感的にも可食で,かつ新機能をもつものにしなければならない。そのため,本研究課題の目標を次のように定めた。(1) 構造形成機構の解明;(2) ナノ食品の構造解明と構造制御;(3) ナノ食品の生理機能と物理機能。このうち本年度は主に(1)の検討を行い,本年度の目標をほぼ達成した。 今までの研究結果から,セルロース溶液からの構造形成は,まずセルロース分子がグルコピラノース平面同士の疎水性の相互作用によりシート状の分子集合体を形成し,次にこのシートが水素結合により積層し結晶や非晶などの二次構造を形成してなされるとされる。疎水性の相互作用で形成した分子シートが積層して結晶化するとしたら,この分子シートの状態が得られる再生セルロースの結晶性を支配するはずである。 そこで,凝固剤として水より誘電率の低いアセトンを用い,分子動力学的検討と,実際の実験を行い,分子シートの状態と結晶性の相関を調べた。また,分子動力学計算では,アセトン中では分子シートは分断し,表面積を最小とするような凝集状態となった。このような構造からは,結晶性が低い再生セルロースが予想される。また,セルロース分子鎖の主鎖のコンフォメーションの分布は広く,分子内水素結合は低く,分子間水素結合は発達していた。これらはすべて,最終的に得られるセルロースの結晶化度が低くなることを示唆している。一方,実験による検討において,アセトンを沈殿剤として用いると,極めて結晶性の低いセルロースが得られた。このように分子シートの状態が再生セルロースの結晶性に影響を及ぼすことが確認でき,セルロース溶液からの構造形成機構のほぼ全容を明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
木質パルプから世界で始めて法的に可食なセルロース成形体が調製可能になったが,食感的にも可食で,かつ新機能をもつものにしなければならない。そのため,本研究課題の目標として次の3点を定めた。(1) 構造形成機構の解明:セルロース/水酸化ナトリウム水溶液から,再生セルロースの構造形成機構を解明するとともに,(2) ナノ食品の構造解明と構造制御:食品として望ましい構造にするための制御技術を構築し,(3) ナノ食品の生理機能と物理機能:新たな食品としての機能,すなわちナノ食品の生理機能と物理機能を明らかにすることが本研究課題の目的である。 本研究課題の申請時に,本年度の実施事項を,それぞれの目標(1)から(3)において,次のように決めた:(1)分子動力学計算による検討では,凝固系に配置した分子シートの安定性や水素結合性,分子鎖コンフォメーションなどを測定し,構造形成機構を解明する。同時に実験的にナノ食品を調製し,実験的に得られたナノ食品の構造パラメータと比較しながら構造形成の検討を進める;(2) ナノ食品の基本構造を解明し,様々な構造パラメータと物性の関連を定量的に解明する。ナノ複合体については,相互作用の解析も進める;(3) 物理機能を先行して検討する。粘弾性挙動を,セルロース透明ゲルの構造を系統的に変化させながら,せん断速度依存性,周波数依存性,温度依存性などの観点から行う。 本研究課題の目標のうち,以上のような,本年度の実施目標について,(1)はほぼ達成した。(2)は,アミロースとのナノ複合体についてのみ,セルロースとの相互作用を明らかにすることはできたが,もう一つの検討事項,透明ゲルの基本構造解明については検討不十分であった。(3)については,粘度挙動についてほぼ解明することができた。以上から,本研究課題の,本年度の達成度を標記のもの「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
構造形成機構の解明と,ナノ食品の構造解明と構造制御については本年度に未実施の事項を継続して進める。今までは,どちらかというと,シンプルなモデル系において構造形成を検討してきたが,今後は,より複雑で,より現実に近い溶解系,凝固系についての構造形成について検討し,ナノ食品として望ましい物性を確保する。ナノ食品の生理機能と物理機能については,生理機能(セルロースの代謝率,脂質吸収抑制,血糖上昇抑制,変異原生物質の吸収抑制,カロリー低減効果など)を評価し,新しい機能を見出す。まず,例えば変異原生物質の吸着や血糖上昇抑制など,従来のセルロースが持っている特性についての比較からスタートするとともに,ナノ化したセルロースの代謝率の検討も始める。もしナノセルロースが腸内細菌などで代謝されたら木質資源の食糧化という観点でも重要であろう。さらに「ナノ食品」試作品開発を開始する。想定する用途は,油脂代替分野や嚥下性の改善に関わる分野,またナノ複合体の高吸収性や耐熱水性を利用した,代謝制御材や耐熱水性の食品加工包装材料などである。 今後の研究分担は上田(横浜国立大学大学院工学研究科)教授である。今後は,より複雑な現実に近い系での計算が必要なので,多糖の計算機科学の専門家である,上田教授との研究分担は必須である。研究連携者は巽(九州大学大学院農学研究科)准教授,瀬口(神戸女子大学家政学部)教授である。担当はそれぞれ,ナノ食品の物理機能,生理機能の解明である。 この研究の最終的な目的は,世界で初めて,セルロース成型体を食品に展開し,木質資源の食品としての可能性を探るとともに,ノンカロリー食材として現在の食生活を改善し現代人の健康に資するとともに,ナノ食品という新しい研究領域を構築することであるが,以上のようにして,申請期間にその最終目的の科学的基盤を構築する。
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次年度の研究費の使用計画 |
「収支状況報告書」の「次年度使用額」が792,142円となったが,これは,より現実に近い,より複雑な溶解系,凝固系についての構造形成について検討するために必要な,Accelrys社の計算モジュールにあてる。これの価格が769,944円である。この検討の妥当性を確認するため,量子化学計算を併用するが,この検討は,上田教授(横浜国立大学)が研究分担する。当該大学ではメインコンピュータを使用する場合もあり,その使用料15万円を研究分担金として使用する。 その他,消耗品費として,ガラス機器類,試薬類,実験器具類を合計して,40万円を使用する。計算機科学的検討に加え,実験的検討も重点的に行わなければならないので,この額は妥当と考える。 国内旅費は15万円使用する。これは,他の研究機関の研究分担者(横浜市)や研究連携者(福岡市)との共同研究に必要なものである。本研究は高分子の固体構造,透明ゲルの粘性挙動,計算機科学,栄養学,生理学など多岐にわたりいずれも高い専門性が必要なので,多くの研究分担・連携は必須である。内訳は横浜市2回8万円,福岡市1回4万円,その他,国内学会参加1回3万円である。
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