研究課題/領域番号 |
23580236
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
山根 千弘 神戸女子大学, 家政学部, 教授 (70368489)
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研究分担者 |
岡島 邦彦 徳島文理大学, 理工学部, 教授 (30389168)
上田 一義 横浜国立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40223458)
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キーワード | セルロース / 再生セルロース / 分子動力学計算 |
研究概要 |
セルロース溶液からの構造形成は,まずセルロース分子がグルコピラノースリング平面同士の疎水性の相互作用によりシート状の分子集合体を形成することから始まり,次にこのシートが水素結合により積層し結晶や非晶などの高次構造を形成することで完結する。この結論から考えると,構造形成初期の分子シートの状態が最終構造に大きな影響を及ぼすことが容易に推定される。 昨年度は構造形成の媒体として,水より誘電率の低いアセトンを用い,分子動力学的検討と,実際の実験を行った。そして分子動力学計算では,アセトン中では分子シートは分断し,表面積を最小にするような凝集状態となること,実験では,極めて結晶性の低いセルロースが得られることを明らかにした。このように,最終的なセルロースの構造を制御する上で,構造形成初期に形成する分子シートがきわめて重要なことが判った。 一方最近,重合度700の再生セルロースから,直径30nmの超微粒子が調製された。もしセルロースが従来からいわれているように伸びきり分子鎖であったのなら,重合度700のセルロース分子の長さは350nmにもなり,とても30nmの粒子の中に納まらない。これは,セルロース分子鎖が折れ畳まれていることを示している。したがって,折れ畳み分子鎖による分子シート構造の可能性を大至急検討する必要がある。この検討を行うために,24年度はアクセルリス社製の科学計算用ソフトウェアー,Materials Studio Ver. 6.1を購入した。検討の結果グルコースリングのリングコンフォメーションが通常のイス形からボート形に変わることで,たった一つのボート形グルコースリングでセルロース分子鎖は180°の折れ畳が可能なことを見出し,その折れ畳分子鎖からなる分子シートが伸びきり鎖からなる分子鎖と同等な挙動をすることを確認し,今までの検討手法がそのまま使えることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
木質パルプを水酸化ナトリウム水溶液に溶解する技術を見出し,世界で初めて法律的に可食なセルロース成型体の調製が可能になったが,食感的には極めて不十分なものであった。セルロースの食感の悪さは高い結晶性に起因することは確実であり,再生セルロースの構造形成過程を解明することが最重要課題である。したがって,当初の本研究課題の3つの目標((1)構造形成機構の解明;(2)ナノ食品の構造解明と構造制御;(3)ナノ食品の生理機能と物理機能)のうち最重要課題である(1)構造形成機構の解明を23年度に引き続き行った。 構造形成機構の解明においては,23年度までに,構造形成は,まず疎水性の相互作用によりセルロース分子シートが形成し,それが次に水素結合により積層して最終構造に到達することが判っていた。さらに,食感の向上のため結晶性を抑制するには,再生セルロースの沈殿媒体を極性の低いものにするとか,アミロースなどの多糖をブレンドするとかで達成できる見込みを得ていた。したがって,23年度の実施状況報告書では研究目的の達成度について「おおむね順調に進展している」との自己評価をしていた。 一方この間に,旭化成せんい株式会社の研究グループにより,重合度700の再生セルロース製の30 nmの超微粒子が発明された。今までセルロース分子鎖は伸びきり鎖といわれてきたが,この超微粒子の発明により,再生セルロースの分子鎖は折り畳まれていなければならないことになった。したがって折れ畳み分子鎖でも,現在まで検討してきたような構造形成機構が通用するのかどうか至急確認しなければならず,この検討を24年度は集中的に行った。そのため他の研究目的((2)ナノ食品の構造解明と構造制御;(3)ナノ食品の生理機能と物理機能)の進捗が遅れ,研究目標の達成度が「やや遅れている」という自己評価になってしまった。
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今後の研究の推進方策 |
今までの常識とは全く異なり,再生セルロースの分子鎖は折れ畳まれているということになった。24年度の検討により,先に書いたように,たった一つのボート形グルコースリングでセルロース分子鎖は180°のヘアピンターンができること,その折れ畳分子鎖からなる分子シートは,伸びきり鎖からなる分子鎖とほぼ同等な挙動をすること,などを確認したが,この折れ畳み分子鎖に関する検討をいま少し続けなければならない。すなわち,折り畳み部のグルコースのリングコンフォメーション,折れ畳み鎖分子シートと伸びきり鎖分子シートとの構造比較,折れ畳み分子鎖結晶のエネルギーや様々な構造パラメータなどを明らかにする必要がある。これらの検討を,24年度の購入したアクセルリス社製の科学計算用ソフトウェアー,Materials Studio Ver. 6.1を使用して引き続きおこなう。 これと平行して,やや進捗が遅れているその他の目標((2)ナノ食品の構造解明と構造制御;(3)ナノ食品の生理機能と物理機能)を遂行する。24年度の検討により,セルロースにコンニャクグルコマンナンをブレンドすると,極めて良好な食感になることが見出された。本研究課題では,申請書に書かれているように,食用多糖とのナノ複合体もナノ食品と定義しているので,これもナノ食品ということができる。したがって,今後の(2),(3)に関わる検討は,セルロースとコンニャクグルコマンナンの複合体を中心に行う。今まで,セルロースとコンニャクグルコマンナンがナノメートルオーダーでブレンドしたことは確認している。この複合体は,ダイエタリー食品などを取り扱っている食品メーカーからも極めて良好な評価を得ており,それらの企業と事業展開を目指した共同開発も行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず,次年度使用額(B-A)は,\72,633-である。 この分は当初の計画にはなかった,先に述べた「折れ畳み分子鎖構造」に関する研究にあてる。これは科学計算用備品などの購入費である。 全体計画がやや遅れているとはいえ,セルロース/グルコマンナン複合体という食材として好適な候補が見つかったので,応用研究である,当初に予定していた,研究補助「食品の官能検査パネラー,15万円」などは必要である。また,当初予定の(2)ナノ食品の構造解明と構造制御;(3)ナノ食品の生理機能と物理機能,に関する検討も予定通り続ける必要があるので,当初予定していた消耗品費として,ガラス機器類,試薬類,実験器具類を合計して,40万円を使用する。 国内旅費は15万円使用する。これは主に,他の研究機関の研究分担者(横浜市)や研究連携者(福岡市)との共同研究に必要なものである。内訳は横浜市2回8万円,福岡市1回4万円,その他,国内学会参加1回3万円である。
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