研究課題/領域番号 |
23580237
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研究機関 | 独立行政法人森林総合研究所 |
研究代表者 |
戸川 英二 独立行政法人森林総合研究所, バイオマス化学研究領域, 主任研究員 (60343810)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | セルロース / 有機-無機ハイブリッド / ゾル-ゲル法 / 高次構造 |
研究概要 |
セルロース/LiCl/ジメチルアセトアミド溶液と各種アルコキシシランとの混合液から、ゾル-ゲル反応を用いて、セルロースと無機物であるシリカが混在する有機-無機ハイブリッドフィルムの調製を試みた。 今回の実験条件下ではすべてのアルコキシシランにおいて、セルロース溶液と混合した際に、凝集による沈殿やゲル化は起こらず、混合溶液は透明で安定していた。このセルロースとシランの混合溶液からゾル-ゲル反応を用いたフィルム形成を行なったところ、四官能性であるテトラアルコキシシランと混合した系からは、透明なフィルムが得られた。また、四官能性シラン中の官能基がメチル基で置換されて反応性が低くなった三官能性のメチルトリアルコキシシランならびに二官能性のジメチルジアルコキシシランの系からは、それぞれ失透したフィルムが得られた。いっぽう、置換基がかさ高いフェニル基のシランとの混合溶液からは、均質なフィルムを得ることができなかった。以上の結果から、ゾル-ゲル反応を用いてセルロース/シリカハイブリッドフィルムを作製することができ、その形態は用いるアルコキシシランの化学構造によって異なることが明らかとなった。得られたハイブリッドフィルムの特性を、保水度と引張物性を測定して検討した。その結果、シランとのハイブリッド化によって、セルロースの保水性は低下したこと、またフィルムの引張強度と破断伸びも低下したことがわかった。これら結果から、フィルム中のシリカとセルロースとの間に相互作用が形成していることが示唆された。 以上のことから、セルロース溶液とシラン溶液を混合し、この混合溶液からゾル-ゲル反応を用いてセルロース/シリカハイブリッドフィルムが調製できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書における今年度の研究実施計画として、(1)セルロース溶液とシラン溶液の複合化条件を確立し、材料化を図ること、(2)混合するシランの種類を変えて発現する機能を制御する、以上の2点が掲げてあった。 (1)に関しては、ゾル-ゲル反応を用いることによって、セルロースとシリカからなる有機-無機ハイブリッドフィルムの調製に成功していることから、目標を達成している。調製の際の具体的な条件として、室温下における両液の混合と、45℃でのゾル-ゲル反応促進によってセルロースとシリカのハイブリッドが形成されることを明らかにした。(2)に関しては、四官能性であるテトラアルコキシシラン、また反応性が異なるようにメチル基によって一カ所置換された三官能性であるメチルトリアルコキシシラン、二カ所置換されたジメチルジアルコキシシランをそれぞれ用いてハイブリッドフィルム化を試み、得られたフィルムの差異を検討した。またメチル基よりもかさ高いフェニル基を置換基にしたシランも用いて同様の検討を行なった。さらに、各種シランの混合量を変化させて得られたハイブリッドフィルムの保水度および引張物性を検討し、シリカとセルロース間での相互作用の存在を示唆している。 以上の成果から、研究は順調に進展しており、現在までの達成度は計画通りで、ほぼ目的を達成しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに引き続き、シランとの複合化セルロース材料の調製法の確立ならびに機能評価・構造解析を行なう。調製できたセルロース/シリカハイブリッドフィルムの機能評価として、力学物性・難燃性・はっ水性等の性能試験を行なう。具体的な機能評価の内容は、力学物性としては、ヤング率・引張強度・破断伸びを測定する。この測定により、複合材料の機械的性能を見極める。難燃性に関しては、アメリカ保険安全試験所規格UL94に準じた燃焼速度試験法にて評価する。この試験結果から、セルロースに無機素材の難燃性能が付与できたかが評価できる。また、水に対する性能に関して、表面はっ水性に対しては水滴滴下による接触角法を、フィルムのバルク評価としては保水度試験を行ない、それぞれ評価する。以上に加えて、機能向上を目指したフィルムのアニーリング(高温熱処理)効果に関しても検討を行なう。いっぽう、複合化フィルムの構造解析としては、X線回折と固体NMR(29-Si)測定を中心に行なう。とくに、固体NMR測定から推定できるシリカの結合状態をもとにして、ハイブリッドフィルムの分子構造を検討する。 また、これまでに得られた結果から、溶液での混合、続くゾル-ゲル化からの複合化調製法では、得られたハイブリッドフィルムの飛躍的な物性改良が見られなかった。そこで、最初にセルロース単体で再生セルロースハイドロゲルを調製し、そのセルロースゲルを用いて各種シランとの複合化を検討し、その構造や機能を解析してみる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費の次年度使用を行なった(138千円)。これは、研究開始当初に発注した物品(固体NMR測定用ローター部品一式)の納品が遅れ、予定していた固体29Si-NMR測定計画の変更を余儀なくされたためである。当該部品の現在における製造・管理会社は米国にあり(Agilent Technologies)、度重なる企業買収・合併があった直後であったため、物品製造および日本代理店への納品が遅れた模様である。この次年度使用分は、当初計画していた通りに、固体29Si-NMR測定用のプローブ調整と測定条件の整備に用いる予定である 物品費として700千円、旅費として400千円、人件費・その他として300千円の使用を予定している。研究計画では、複合化フィルムの調製とその評価が研究の中心となるため、物品費は主として、セルロース溶液調製用試薬、シラン薬品、ガラス・プラスチック製品やフィルターなど消耗実験用具に用いる。研究も中盤にさしかかり、成果発表や研究情報交換を充実させるため、とくに、旅費は初年度よりも増額している。人件費等は、ルーティンになった測定・評価試験を行なうための実験補助謝金を予定している。
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