研究概要 |
本研究は,研究実施計画に沿って,サケ類の母川刷込に強く関わる脳領域を明らかにするために,サケ類の降河時および母川遡上時の各嗅板からの嗅細胞軸索を可視化することにより,嗅球における嗅神経一次投射領域を神経解剖学的に解析し,その詳細な脳地図の作成を目指すものである。初年度である本年度は,浮上後まもなく降海し,遡上は産卵期に近いシロザケを用い,母川刷込時にすでに形成されている嗅神経系の神経回路を明らかにすることを目的として,シロザケ幼稚魚の嗅神経系一次投射領域を,カルボシアニン系蛍光色素の一種である 1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindo carbocyanin perchrorate (DiI) により死後標識し,共焦点レーザー顕微鏡を用いて神経解剖学的に解析した。その結果,共焦点レーザー顕微鏡による観察では,嗅球のDiI標識終末部位は吻側正中側部,背側外側部,外側部,腹側外側部の4領域に大別できた。嗅神経束の背側部からDiIを挿入した場合,上述の4領域のうち腹側外側部に蛍光は認められなかった。嗅球内の各DiI標識終末部位では,明瞭な糸球体構造は確認されなかった。本研究によって,シロザケ幼稚魚の嗅神経一次投射領域が明瞭に可視化され,4領域に大別することができた。これらの投射領域は,ニジマス成魚での嗅神経指標分子の免疫組織か学的解析により報告されている領域と対応していた (Riddle and Oakley 1992)。また,DiI標識終末部位において糸球体構造が確認されなかったことから,サケ属魚類では,嗅神経軸索末端にマウス (Mus musculus) やゼブラフィッシュ (Danio rerio) のような明瞭な糸球体を形成せずに僧帽細胞樹状突起とシナプス結合している可能性が示された。
|