研究概要 |
本研究は,研究実施計画に沿って,サケ類の母川刷込に強く関わる脳領域を明らかにするために,サケ類の降河時および母川遡上時の各嗅板からの嗅細胞軸索を可視化することにより,嗅球における嗅神経一次投射領域を神経解剖学的に解析し,その詳細な脳地図の作成を目指すものである。前年度に浮上後まもなく降海し,遡上は産卵期に近いシロザケ (Oncorhynchus keta) 幼稚魚を用い,カルボシアニン系蛍光色素の一種である 1,1’-dioctadecyl-3,3,3’,3’-tetramethylindo carbocyanin perchrorate (DiI) により死後標識により母川刷込時に形成されている嗅神経系の神経回路を可視化できたことから,2年目である本年度は,シロザケに比べおよそ1年間長く河川に留まり,翌年の幼魚期に降河するサクラマス (O. masou) の解析に着手した。サクラマスの母川刷込時と推定される銀化変態が5月に盛期になることから、その前後を含む3月から6月のサクラマス幼魚孵化場個体について月1回採集を行った。DiIによる嗅神経一次投射領域の分析に先立ち,銀化変態に伴う嗅神経系の発達に関する情報がこれまでに無いことから,嗅房中の嗅板数の計数,嗅細胞数および嗅上皮表面における嗅細胞の密度を走査型および透過型電子顕微鏡を用いて分析した。片側嗅板数は11枚から16枚へと増加し,シロザケ嗅房より2~3倍であることが明らかとなった。嗅房の発達に伴い嗅細胞数も増加していたが,密度については大きな変化が認められなかった。
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