研究課題
本研究は、魚類の卵・稚仔魚へ物質を輸送するシステムの開発を視野に入れ、そのための基礎的知見を得ることを目的としている。具体的には、卵母細胞に特異的に発現する受容体(ビテロジェニン受容体:VgR)を標的とし、そのリガンド(ビテロジェニン:Vg)やVgR抗体を輸送体として利用する。本年度は以下の成果を得た。1.イトウおよびマコガレイの血清からVgを精製し、各々を2種の蛍光化学物質で標識したものを同一個体のゼブラフィッシュ雌へ注射投与した。その結果、両標識Vgとも卵黄形成期の卵母細胞に取り込まれ、受精卵にも蛍光物質が移行した。また、両者の卵母細胞への取り込み様式(卵巣内局在および取り込みに要する時間)は同様であった。2.カットスロートトラウトVgのリポビテリン軽鎖領域 (LvL) をコードする組み換え蛋白質を作製した。このLvLを蛍光標識し、ゼブラフィッシュ雌に注射投与したものの、卵母細胞内に確認された蛍光はごく微量であった。3.精製イトウVgの脂質部位に任意の脂質(蛍光パルミチン酸及び蛍光リン脂質)を直接標識することに成功した。これら標識Vgをゼブラフィッシュ雌に注射投与したところ、卵黄形成期の卵母細胞に取り込まれたことが確認された他、発生初期の胚体や稚仔魚への移行も確認された。以上、ゼブラフィッシュをホストとし、系統の離れた2種の魚類をVgのドナーとした場合にも、Vgが卵母細胞へ特異的に運搬されることが明らかとなり、本輸送システムは魚種を選ばないシステムとなることが確認された。また、Vgに任意の脂質を添加する方法が確立された。応用により種苗の質を向上させる脂質や脂溶性物質を、親魚から卵・稚仔魚へ効率的に輸送することが可能となる。これらの成果により、実用的な物質輸送システムを開発する基盤が形成され、魚類の卵黄形成・吸収機構の解明に向けても多くの重要な基礎的知見を提供した。
すべて 2014 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 1件)
Comparative Biochemistry and Physiology, Part B
巻: 166(1) ページ: 81-90
10.1016/j.cbpb.2013.07.005