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2012 年度 実施状況報告書

有用微生物の扶育場としてのアマモ葉体表面のバイオフィルム

研究課題

研究課題/領域番号 23580252
研究機関京都大学

研究代表者

吉永 郁生  京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (40230776)

キーワードアマモ場
研究概要

本年度は、海域のアマモ場になぞらえることができる淡水湖沼のヨシ群落において、アオコ原因微細藻(Microcystis aeruginosa)を殺滅できる細菌の探索を行った。これは近年、日本のみならず世界各国で、淡水湖沼のアオコ(海域の赤潮に相当)が問題になっており、このアオコの発生に淡水湖沼の沿岸域のヨシ群落の細菌群集が関わっているかどうかを知るためである。その結果、アマモ場が赤潮殺滅細菌の扶育場となっている可能性が高かったのに対して、ヨシ群落は必ずしもアマモ殺滅細菌の扶育場にはなっていないことが明らかになった。一方、ヨシ群落は河川水と海水が混合する汽水域でも沿岸域の景観を彩っており、この汽水域の微生物が海域の一次生産に大きな貢献をしていることを示唆する研究が、最近発表されていることから、予備的にヨシバイオフィルムの微生物活性を測定した。同時にヨシのバイオフィルムが主要な成分となっている汽水域の粒状物の微生物活性も測定したところ、汽水域の有機物分解、および無機化にヨシのバイオフィルムと水中の粒状物に付着している細菌群集が大きく貢献していることが明らかになった。16S rRNA遺伝子解析の結果、双方は類似しており、このヨシバイオフィルムが汽水域の微生物活性の扶育場になっていることが強く示唆された。
本研究の結果は、アマモの葉上やヨシ水中茎に発生するバイオフィルム沿岸の生態系の生産性の維持や赤潮発生の抑制に貢献していることを示しており、今後の沿岸環境管理にとって一つの示唆を与えるものである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

本研究では、沿岸海域で特徴的な景観の一つであるアマモ場に着目し、このアマモ葉上に生成されるバイオフィルムが周辺の環境に影響を及ぼしているとの仮説を立て、実施している。その際、窒素の循環に関わる細菌、特に脱窒細菌と、赤潮の防除に関与している細菌、赤潮殺滅細菌に着目し、これらを「有用細菌」と定義している。本年度はそれに加えて、汽水域の微生物による無機栄養塩類の再生産が下流の海域の基礎生産を支えているという近年明らかになりつつある知見をふまえて、海域のノリ養殖や基礎生産の異常が伝えられる有明海を現場として、そこに注ぎ込み込む筑後川河口域の微生物による有機物の無機化活性を調査した。これは、当初考えていた研究計画とは多少異なるが、アマモ場やヨシ群落などの沿岸植物が細菌が関わる様々な生態学的な役割に重要であることを示すうえでは違いは無い。今回、あらたにヨシ群落のバイオフィルムがはがれて懸濁粒状物化し、それが汽水域における栄養塩の再生産に寄与していることを示すことができた。これは、本研究が目指すゴールの新たな展開を拡げるものであると考えている。

今後の研究の推進方策

今後は、アマモ葉上に生息する赤潮殺滅細菌の生態系での挙動を分子生物学的に解析する手法を確立し、それを用いて生態学的な調査を行い、アマモ場が、共存する微生物を介して健全な海洋環境の維持、保全に重大な役割を果たしていることを明らかにしていく。同時に、河川と海洋が出会う汽水域においても、その沿岸に発達するヨシ群落が、これも共存する微生物を介して汽水域や海洋の良好な生物環境の維持に役立っていることを示す知見を得ていく。具体的には、干満に応じて物理、化学環境が劇的に変化する汽水域で、ヨシのバイオフィルムを起源とする粒状物付着細菌群集が、その変化にどのように応じているのかを明らかにする。このような研究はいまだなされておらず、汽水域の環境管理において重要な提言ができるのではないかと期待している。

次年度の研究費の使用計画

研究代表者は平成25年4月1日をもって、鳥取環境大学環境学部に転任した。この新しい大学において、これまでに採取した微生物固定試料ならびに凍結試料を用いて、上記の研究計画を推進するべく、まずは研究に必須の設備ならびに試薬の購入に研究費を充てる。すでに昨年度までに生態学的な研究に必要な試料は採取、保存しており、生態学的調査に支障はない。一方、不足する研究資金については、学内および学外の研究助成に積極的に応募していく。できれば、これまでに蓄積した微生物データや環境データなどの重層的なデータを伴う試料から環境DNAを抽出し、最先端のゲノム解析技術を駆使して、アマモ場やヨシ群落の共存微生物、とりわけバイオフィルム微生物のデータベースを構築したい。そのために、本研究課題で、できるだけ有用な環境試料データベースを維持、整理する必要があり、それに要するシステムの構築費用にも研究費の一部を使用する。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2012 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] シャットネラ殺藻細菌の扶育場としてのバイオフィルム2012

    • 著者名/発表者名
      吉永郁生
    • 雑誌名

      Nippon Suisan Gakkaishi

      巻: vol. 78,No.2 ページ: 284

  • [雑誌論文] 和歌山県下芳養湾における海水中およびアオサに付着する赤潮藻殺藻細菌の分布2012

    • 著者名/発表者名
      今井一郎,岡本悟,西垣友和,吉永郁生,竹内照文 (2012),,
    • 雑誌名

      北海道大学水産科学研究彙報

      巻: 62 ページ: 21-28

  • [雑誌論文] 環境中の窒素の循環とあらたな経路としてのアナモックス2012

    • 著者名/発表者名
      吉永郁生,天野皓己
    • 雑誌名

      Nippon Suisan Gakkaishi

      巻: 78 ページ: 281

    • DOI

      10.2331/suisan.78.281

  • [雑誌論文] etection of Anammox Activity and 16S rRNA Genes in Ravine Paddy Field Soil2012

    • 著者名/発表者名
      Y. Sato, H. Ohta, T. Yamagishi, Y. Guo, T. Nishizawa, M. Habibur Rahman, H. Kuroda, T. Kato, M. Saito, I. Yoshinaga, K. Inubushi, Y. Suwa
    • 雑誌名

      Microb. Environ.

      巻: 27 ページ: 316-9

    • 査読あり
  • [学会発表] 溶存鉄が筑後川河口高濁度水域の従属栄養細菌に与える影響2012

    • 著者名/発表者名
      藤永承平、吉永郁生、田中克
    • 学会等名
      日本陸水学会77回大会
    • 発表場所
      名古屋大学
    • 年月日
      20120914-20120917
  • [学会発表] Differences between particle-attached and free-living bacteria community in the Chikugo river

    • 著者名/発表者名
      S. Fujinaga, I. Yoshinaga, M. Tanaka
    • 学会等名
      JSPS core-to-core program "The first international seminar on biodiversity and evolution"
    • 発表場所
      Kyoto University

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公開日: 2014-07-24  

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