近年,養殖や放流の目的で,様々な海産魚が韓国・中国等の東アジアから移入されることが多くなっている.これらが自然海域に広がった場合,日本沿岸の在来同種ないし近縁種に遺伝子浸透交雑などの撹乱による悪影響を及ぼす可能性が懸念されるが,淡水魚とは異なり,現状の調査確認はほとんど進められていない.本研究ではスズキ属を主要な対象として移入魚による遺伝的撹乱の可能性を調査するとともに,他の魚種についても国内と国外個体群の比較を行い,将来的な遺伝的撹乱の危険性について評価を試みた. 前年度までに,移入外来魚であるタイリクスズキの生息が近年でも多数確認されている瀬戸内海西部を中心とした数地点から採集されたスズキ標本約350個体について,ミトコンドリアDNAおよびマイクロサテライトDNAを用いた遺伝分析を行ったが,タイリクスズキによる遺伝子浸透が確実に認められる個体は見つかっていなかった.今年度は,スズキとタイリクスズキの分布重複域である韓国から中国沿岸においても調査を行い,両種は自然分布域でも低頻度ながら交雑することを確認した.また,日本国内での分析地点と標本数をさらに増やして約550個体を調べたところ,高知県浦戸湾周辺において,F1の可能性が高い個体を含め,タイリクスズキとスズキの交雑例が明瞭に確認された.海産魚において移入種による遺伝的撹乱が示されたのは本例が初めてと思われる. スズキ属以外では,コノシロにおいて,韓国と日本の間でミトコンドリアDNAの系統が大きく異なることを見出した.韓国東岸の一部では韓国系統と日本系統が混在する地域があったため,両系統間での交雑の有無を引き続き調べる予定である.
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