研究課題/領域番号 |
23580260
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
池田 譲 琉球大学, 理学部, 教授 (30342744)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イカ類 / 他者認知 / 社会性 / 行動 / 脳・神経 |
研究概要 |
本研究は、イカ類に見られる高次脳機能が社会性に関連して発達したとの発想のもと、同種個体より成るイカ類の複雑な群れの社会について、同種個体を見わける能力、すなわち他者認知をソーシャルブレインズ(社会脳)の視点を導入し、「心の理論」や視覚発達にも注目しつつ読み解くことを目的とした。 この目的達成のため、平成23年度は他者認知の機構を、アオリイカを対象に調べた。初めに、自種への嗜好性、つまり種認知について探るため、アオリイカに自種および他種であるコウイカ類とタコ類を提示し、行動を観察した。その結果、アオリイカは自種に対して高い関心を示し、種認知の能力があることが示唆された。次に、アオリイカが群れ内の同種個体を見分けることができるのか調べるため、任意個体の組み合わせによる対面実験を行った。その結果、同一個体に対して時間経過と共に関心が低くなる一方で、新規個体に対しては関心が高くなるという、馴化・脱馴化の過程が観察されたことから、本種が同種個体を識別している可能性が示された。また、アオリイカが自種の行動に関心を払い、注視しているのか検証するため、集団状態における摂餌場面を観察した。その結果、アオリイカは集団中の他個体の摂餌行動に触発される形で摂餌が活発する様子、すなわち自種の行動を注意深く観ている様が観察された。さらに、社会的順位といった個体の属性に応じて、アオリイカが自身の行動を変えるのか、「心の理論」に基づく摂餌を巡る対面実験を行った。その結果、自身よりも優位な個体に対峙した時と劣位の個体に対峙した時では、摂餌の抑制と非抑制が見られ、本種が個体属性を踏まえて行動を調整している可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の年度計画通り、アオリイカの種認知、アオリイカの他個体認識、アオリイカの視線注視、「心の理論」の各項目について、実験、観察を遂行し、相応の成果を得ることができた。また、何れの課題においても、アオリイカの長期間にわたる飼育が必要であったが、これも滞りなく遂行することができた。研究遂行の過程で、研究課題の改変を要するような事態が生じることはなく、主要な物品であるイカ幼体行動装置の購入を含め研究費もほぼ予定通り執行した。以上より、研究はおおむね順調に進展したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の成果を踏まえ、平成24年度はアオリイカにおける他者認知の発達過程を主な課題として研究を進める。具体的には、他者認知の発達過程について、孵化後のアオリイカに自種を含む複数のイカ類の画像を提示し、これらへの接近、蝟集の有無に基づき同種を識別、認識する過程を明らかにする。また、これと平行し、同種のバイオロジカルモーションをアオリイカ若齢個体に提示し、提示刺激に対する反応から自種に関わる要素を視認し始める時期を特定する。さらに、他者認識に関わる視覚と脳の形成過程を調べるため、孵化後のアオリイカを定期的に採集して、眼および脳の組織標本を作成して観察する。これに基づき、他者認知に寄与する視覚と情報処理について明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費は、実験個体の飼育、行動観察、眼と脳の組織学的観察などに要する物品費、学会参加に伴う旅費、実験補助に要する謝金などに、当初の予定通り配分して使用する。
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