研究課題/領域番号 |
23580260
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
池田 譲 琉球大学, 理学部, 教授 (30342744)
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キーワード | イカ類 / 他者認知 / 社会性 / 行動 / 脳・神経 |
研究概要 |
本研究は、イカ類に見られる高次脳機能が社会性に関連して発達したとの発想のもと、同種個体より成るイカ類の複雑な群れの社会について、同種個体を見わける能力、すなわち他者認知をソーシャルブレインズ(社会脳)の視点を導入し、「心の理論」や視覚発達にも注目しつつ読み解くことを目的とした。 この目的達成のため、平成24年度は他者認知の発達過程について、前年度の成果も踏まえてアオリイカを対象に調べた。初めに、他者認知の発達について探るため、アオリイカを孵化時より飼育し、経時的に自種および他種であるトラフコウイカを提示して、自種への嗜好性、すなわち種認知の発達過程を観察した。その結果、30日齢より自種に対する接近距離が他種であるトラフコウイカよりも短くなる傾向が見られ始め、種認知が生後発生的に発現する様子が示唆された。次に、他者認識と視線注視の発達について探るため、集団内におけるアオリイカの挙動を経時的に追跡したところ、摂餌場面において、他個体の捕食行動に同調して捕食行動を開始する様子が孵化後初期から認められたことから、他者認識と視線注視が生後の比較的早い段階から発現することが示唆された。さらに、他者認知の基盤となる視覚とそれに関わる脳領域の発達を探るため、孵化後のアオリイカについて、眼と脳を経時的に採集して組織標本を作成し、解剖学的な検討を加えた。その結果、孵化後の時間経過に伴い、レンズ径が増すとともに、視細胞である感悍が伸長し、視精度が高くなって行く様子、視葉が容積を増して行く様子が観察されたことから、視覚能力が生後の時間経過に伴い整えられて行くことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の年度計画通り、アオリイカの他者認知の発達過程、他者認識に関わる視覚と脳の形成の各項目について、実験、観察を遂行し、相応の成果を得ることができた。また、何れの課題においても、アオリイカの長期間にわたる飼育が必要であったが、これも滞りなく遂行することができた。研究遂行の過程で、研究課題の改変を要するような事態が生じることはなく、研究費もほぼ予定通り執行した。以上より、研究はおおむね順調に進展したと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の成果を踏まえ、平成25年度は他者認知の種間変異を主な課題として研究を進める。具体的には、熱帯性イカ類における他者認知の実態を解明すべく、アオリイカに比べて社会性レベルが低いトラフコウイカを対象として、他者認知の有無を平成23年度の研究手法に準じて調べる。さらに、他者認知の多様性と進化について解析すべく、前述のトラフコウイカで得られた結果と前年度までに得られた結果を対応、分析して、社会構築に関わる認知機構の種間変異とそれらが生じた進化的背景、熱帯海域での異種共存などについて総合的に考察する。また、アオリイカおよびトラフコウイカのバイオロジカルモーションに対する反応と、視覚制御に関わる脳部位である視葉の神経ネットワーク形成についても検討を加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は、実験個体の飼育、行動観察、眼と脳の組織学的観察などに要する物品費、学会参加に伴う旅費、実験補助に要する謝金などに、当初の予定通り配分して使用する。
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