研究課題/領域番号 |
23580261
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
宮台 俊明 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (20157663)
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研究分担者 |
末武 弘章 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (00334326)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 口白症 / ウイルス / トラフグ / 魚病 |
研究概要 |
トラフグの劇症脳炎である口白症の病原体と考えられているウイルスのゲノムの塩基配列を特定し、本症の病原ウイルスの正体をつきとめるのが本研究の目的である。感染したトラフグの脳を磨砕し、そのろ液をトラフグに筋注すると発症し、10日以内に死亡することから、病原体は脳で増幅すると考えられている。この脳磨砕ろ液を脳、卵巣の初代培養細胞、およびトラフグ眼由来の細胞株に接種すると、ウイルスが増幅することから、これらの細胞が感受性を持っていることはこれまでの研究で明らかにした。感染した卵巣細胞培養を電子顕微鏡で観察したところ、ヒトのC型肝炎ウイルスに酷似するウイルス粒子を見ることができた。また、C型肝炎ウイルスに感染した細胞の内部構造変化に極めて類似した変化を認めた。この事実から、口白症ウイルスはC型肝炎ウイルスが属するフラビウイルス科であると仮定し、ゲノム解読実験を開始した。 フラビウイルスには3属あり、それぞれの属を特徴づける保存された塩基配列領域が存在する。そこで、その領域の塩基配列情報を元にしてプライマーを作製し、ウイルス感染培養細胞の培養上清を鋳型に用いて、RT-PCRを行った。しかし、ウイルスと見られるクローンは全く得ることができなかった。 そこで、RNAウイルスだけでなく、DNAウイルスも解析の対象に加え、網羅的にウイルスゲノムをクローニングするをRDV法(Rapid Determination System of Viral RNA Sequences)を用いてクローニングを開始した。現在、数10個のトラフグゲノム以外の塩基配列を得たものの、相同性解析によればPseudomonasをはじめとする細菌類だけがクローニングされている。今後はウイルス試料の調製法とRDV法を改善し、口白症ゲノムのクローンを得る努力を続ける。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1)当初予測していたフラビウイルス科のゲノム配列と一致する部分をクローニングできなかったことに、大きな躓きがあった。あらゆる可能性を調べつくしたと言っても過言ではないほどの努力を払ったにも関わらず、検出できなかったことから、口白症ウイルスには、既知のフラビウイルスが持っている保存配列は全くない、と言わざるを得ない。そこで、サブトラクション法を用いて、感染脳特異的なゲノム配列の探索を行ったものの、トラフグゲノム由来、特にリゾゾーマルRNA網羅的ウイルスゲノム配列が増幅されることが多く、現在のところ成功していない。(2)感染脳からウイルスを精製する方法は確立している。硫酸プロタミンによる宿主DNAの沈殿除去、ヨード系媒体(血管造影剤)を用いた密度勾配遠心、硫酸セルロファインを用いた吸着クロマトグラフィーである。これらの各ステップで得られた分画をトラフグに接種して発症するかどうかをチェックすることにより、ウイルス分画を得る。これらの方法は長時間を要するだけでなく、各ステップでウイルス活性のロスを招く。(3)本ウイルスは延髄から脊椎においてわずかに観察されるにも関わらず、劇症の急性感染症を引き起こす。予測されていた事実ではあるが、ウイルスの絶対量が少ないこともゲノム解析を困難にしている原因であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
第1の問題点(既知のフラビウイルスに共通する配列はなかった)を解決するために、サブトラクション法に加えて、網羅的に未知ウイルスのゲノムを読み解くためのツールであるRDV法を導入する。現在、既に何回かのRDVの試みを行っているところであり、さらに継続することによって、口白症ウイルスゲノムクローンを得ることを目指す。 第2の問題点(精製過程でウイルス量が減少する)を解決する方法としては、ウイルス感受性培養細胞を使用する、という選択がある。現在広く使用されている細胞株では全く増殖が見られない。トラフグ脳細胞の初代培養、トラフグ卵巣の初代培養、およびトラフグ眼由来細胞株の3種類だけが口白症に感染する。この中で、最も感染感受性が高いのは、トラフグ脳初代培養細胞である。ところが、脳1個からは1mLの培養しか得ることができない。そのため、大量の口白症ウイルスを得ることはできない。しかし、複雑な精製操作を行わなくとも純度の高いウイルス粒子を得ることができる。少量ではあるものの、他の細胞に比べて多くのウイルスを得られる可能性は高い。ここで得られたウイルスを用いて、上記のサブトラクション、RDVを行えば、ウイルスゲノムをクローニングできるのではないか、と考えている。第3の問題点(ウイルスの絶対量が少ない)を解決する方策は今のところ考え付かない。そこで、視点を変えて、ウイルス量が少ないのに、なぜ急性で致死的な感染症を発症するのか、という課題に目を向けようと考えている。感染脳の病理組織像、および頭骸骨内へ浸出する液性成分量が増加することから、炎症性反応が起きている、と推測している。当研究室の分子免疫学のスキルを用いて、脳内炎症反応の実態を明らかにすることを目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究推進策から、ほとんどの研究費は分子生物学的手法を用いるための試薬と消耗品に費やす予定である。 一部はプロジェクト研究員の人件費に用いる。 なお、平成23年度において生じた残額、8696円は、平成24年度受け入れ分と合わせて、試薬類等に充てる予定である。
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