研究課題/領域番号 |
23580263
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
千葉 洋明 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (50236816)
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研究分担者 |
森山 俊介 北里大学, 海洋生命科学部, 教授 (50222352)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アブラハヤ / 排卵 / 吻部伸長 / 生殖腺 / 下垂体 / ホルモン / 受容体 / 遺伝子発現 |
研究概要 |
昨年度は、アブラハヤの排卵時に分泌される生殖腺刺激ホルモン(GTH)サージが吻部伸長に直接関与することを証明するために、河川における排卵個体の捕獲と生殖腺刺激ホルモン(GTH)のin vivoおよびin vitro投与実験と組織学的解析を重点的に行い、下記の知見を得た。1)アブラハヤの卵成熟誘起ホルモン(MIH)の同定と作用:排卵時の血中ホルモン量の測定および排卵前の卵を用いたin vitro 最終成熟誘起実験より、アブラハヤのMIHは17α,20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(17,20β-P)であることが判明した。しかし、この17,20β-Pを排卵前の吻部とともに培養しても、吻部の伸長を促さなかったことから、MIHは吻部の伸長には関与しないことが示された。2)吻部伸長における成分と組織変化:吻部の上皮組織内の結合組織は、繊維芽細胞と非定形物質で構成され、排卵雌の繊維芽細胞の密度は低くなり、結合組織に占める非定形物質の割合が高くなることが判明した。また、GTHのin vivoおよびin vitro投与実験により吻部伸長を誘起された個体においても同様な現象が見られた。さらに吻部の成分分析より、組織中の水分が増加していることからこの非定形物質は水分を主成分としていることが示唆された。以上のことから、排卵時に分泌されるGTHが直接吻部に作用し、吸水現象を介して吻部の伸長を促していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、昨年度中にアブラハヤの排卵時の吻部伸長におけるGTHおよびその受容体遺伝子のクローニングを行い、生殖腺の発達に伴うGTHおよび受容体遺伝子の局在変化まで終了する予定であった。しかし、東日本大震災の影響を受け、それまでに収集した解析用の冷凍サンプルが停電により腐敗してしまい、再度排卵個体の採集の必要性に迫られた。また、本学部の関東移転に伴う新たな実験環境の立て直しに、時間と労力が費やされたことにより本計画が大幅に遅れる状況に至った。現在、新たに収集した下垂体およびGTHの標的器官(卵巣、吻部)からRNAを抽出し、一連の操作から得られたcDNAの構造を元に遺伝子の5’上流領域のクローニングを急ピッチで進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、アブラハヤのGTHおよびその受容体遺伝子のクローニングで得られる成果を活用し、生殖腺の発達に伴う吻部におけるGTH受容体遺伝子の局在から、卵巣と同様に吻部がGTHの標的器官であることを証明する。さらに、成熟に伴う脳下垂体におけるGTH遺伝子発現量および吻部におけるGTH受容体遺伝子発現量の変化から、排卵時の吻部伸長に対する内分泌調節機構を明らかにするために、下記の実験を実施する。1)生殖腺の発達に伴うGTHおよび受容体遺伝子の局在変化cDNAクローニングにより得られた情報を元に、標識アンチセンスcRNA,および対照実験用の標識センスcRNAを調製し,in situ ハイブリダイゼーションを行う.試料にはGTH用に脳下垂体を、GTH受容体用に繁殖期を含む様々な発達段階の卵巣と吻部を用いる。これにより,下垂体でのGTHと様々な発達段階の生殖腺と吻部でのGTH受容体の発現動態の関連を明らかにする。また、吻部の遺伝子レベルで発現するGTH受容体細胞を同定し,前述の免疫組織によるGTH受容体が発現する細胞と同一であるか比較検討を行う。2)GTH遺伝子発現およびGTH受容体遺伝子発現と吻部伸長繁殖期前後のアブラハヤ雌を河川から定期的に捕獲し、脳下垂体をサンプリングする。脳下垂体におけるGTH遺伝子発現量をリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により定量する。また、GTHが作用する組織・器官を同定するために、生殖腺および吻部をサンプリングし、GTH受容体の有無を逆転写PCRによって調べるとともにGTH遺伝子発現量をリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法により定量する。
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次年度の研究費の使用計画 |
来年度の研究計画に基づいて、主に下記の消耗品に使用する。・組織化学用試薬類:in situ ハイブリダイゼーション、免疫組織および通常の組織染色に使用する.・遺伝子解析用試薬類:生殖腺刺激ホルモンおよびその受容体の遺伝子発現解析用プローブ作成に使用する.・プラスチック器具:上記の実験全般に渡って使用する.その他、国内旅費は、アブラハヤのサンプリング(相模原―遠野間)および水産学会において研究成果を発表するために使用する.
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