研究概要 |
魚類の繁殖は、他の脊椎動物と同様に視床下部―下垂体―体組織系のペプチドホルモンの強い支配下にある. 生殖腺の発達と成熟は下垂体生殖腺刺激ホルモン(GTH)の影響を受けていることがよく知られているが、産卵に伴う他の生理現象におけるGTHの機能については不明点な点が多い. 申請者らは、コイ科魚類のアブラハヤ雌が排卵時に吻部が伸長し潜砂行動により産卵を行い、その現象にはGTHである黄体形成ホルモン(LH)が関与する可能性をin vivoおよびin vitro投与実験と組織学的解析によって示した. アブラハヤの卵成熟誘起ホルモン(MIH)は17α,20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(17,20β-P)であることが判明したが、17,20β-Pは吻部の伸長には関与しないことが示された. アブラハヤの卵巣からLH受容体cDNAをクローニングしたが、吻部でのLH受容体遺伝子の発現解析には至らなかった. 吻部伸長における吻部の上皮組織内の結合組織は、繊維芽細胞と非定形物質で構成され、排卵雌の繊維芽細胞の密度は低くなり、結合組織に占める非定形物質の割合が高くなることが判明した. この非定形物質は、吻部の含水率が増加していることから、水分を主成分としていることが示唆された. 以上のことから、アブラハヤの排卵時に分泌されるLHは、卵巣のみならず吻部にも作用し、結合組織の吸水を介して吻部の伸長を促していることが判明した. 本研究により魚類の配偶子形成におけるGTHの新しい生理的調節機構の一端が明らかとなった.
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