研究課題/領域番号 |
23580264
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
大越 健嗣 東邦大学, 理学部, 教授 (60201969)
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キーワード | 外来生物 / サキグロタマツメタ / アサリ / サイレント・エイリアン |
研究概要 |
昨年度は東北太平洋沖地震により、調査を予定していた宮城県と福島県は大きな被害を受け、予定していた調査を行うことが困難になった。そこで調査の多くは次年度に行うこととしたが、調査地の宮城県2か所、福島県1か所の沿岸は地震前とは大きく環境が変化し、一部は立ち入り制限があった。調査対象種の外来生物およびアサリの生息状況も地震前とは大きく変化していることが予想されたため、当該年度は両者に対する地震・津波の影響の検討を行った。また、外来生物であるサキグロタマツメタの原産地における生息状況や水産重要種に対する被害などの現状を把握するため中国での調査を行った。 1.地震後のアサリ養殖場の調査:地震・津波による地形変化、地盤沈下による干潮時の干潮域の変化等の一部を明らかにし、コドラート法によるアサリの生息状況を把握した。両県の当該年度のアサリ生産量は引き続きほぼゼロであり、生産再開の見通しは立っていない。サキグロタマツメタは成貝及び卵塊を発見し地震後も生息していることが明らかになった。また地盤沈下を起こしている場所での発見数が地震前より大幅に減少した。 2.サキグロタマツメタの原産地のひとつである中国の青島周辺で調査を行った。サキグロタマツメタの生息を確認したが、大きな漁業被害は確認されず、また、サキグロタマツメタ自身が水産物として採捕・販売されており、しかもアサリよりも単価が高いことが明らかになった。また、調査地で採捕されたアサリの多くが日本に輸出されていることも明らかになった。 3.東京湾でもサキグロタマツメタの地震・津波後の生息状況を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
宮城県と福島県の海域は東北太平洋沖地震により環境が大きく変化したが、当該年度の調査で環境変化の状況やアサリ及び外来生物であるサキグロタマツメタの生息状況の一部がはじめて明らかになった。しかし、アサリ漁場そのものの整備が未だに行われておらず、漁場調査はほとんど行うことができなかった。一方、サキグロタマツメタの原産地での生息状況や水産被害の現状が明らかになった。原産地での調査では必要な情報を得ることができたことから達成度は高いが、地震・津波後の現地調査は当該年度も満足に行うことができなかったことから達成度については「やや遅れている」としたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までに行うことがでなかった研究項目を中心に以下の検討を行う。 1.地震後のアサリ養殖場の調査:2011年3月11日に発生した東北太平洋沖地震で東北地方の主要なアサリ養殖場である宮城県石巻市の万石浦、東松島市や松島市の沿岸、福島県相馬市の松川浦は津波の影響で環境が大きく変化した。当地域におけるアサリ生産は地震後2年経った現在でもほぼゼロになっている。(本研究の申請時にはなかった項目であるが)地震後の現地調査を行い、現状を把握する。 2.地震後の外来生物の生息状況:地震・津波は外来生物にも大きな影響を及ぼしていることが考えられる。そこで、サキグロタマツメタの地震・津波後の生息状況や成長、再生産の状況を調査する。 3.原産地での調査:中国の北部あるいは南部海域または韓国におけるアサリ養殖場でのアサリ生産の現状、捕食者であるサキグロタマツメタの生息や被害の現状を把握する。さらには、アサリの採集から選別、袋詰め、移動、輸出までのプロセスの把握を試みる。調査には国際的、政治的、経済的など様々な要因が絡み、調査が困難な場合が多い。昨年度は中国での調査を行ったが、その後状況等の変化により一時調査ができなくなった。そこで昨年度に引き続き、年度毎に国と地域を限定することはせず、継続的に各国に打診し、チャンスが出たところから実施するという方法で行いたい。 4.東京湾におけるサキグロタマツメタ、ホンビノスガイの分布調査:これまでの東京湾における両種の分布等に関する研究情報の収集を行うとともに、両者が共存する場所の存非、一方のみが生息する場所、稚貝の生息場などを調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究開始年度の直前に起こった東北地方太平洋沖地震とその後の津波の影響で、予定していた調査が1年目はほとんどできず、当該年度についても限定的に行うにとどまっており、多くの未使用額が発生した。一方、予定していた海外での調査は一部行うことができた。 今年度は、現地の状況変化に応じて23年度、24年度に行うことのできなかった調査地での調査費用に研究費を使用する。具体的には、旅費・宿泊費、移動や傭船に関わる経費、調査用具、保存、計測・データ解析などに関わる経費に充てる。また、中国および韓国等の原産地における調査に関わる旅費に使用する。さらには、国内外の学会やシンポジウムなどへの参加旅費、論文の出版費用などに使用する。
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