研究課題/領域番号 |
23580265
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
鈴木 美和 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (70409069)
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研究分担者 |
伊藤 琢也 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (20307820)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 浸透圧調節 / 鯨類 / アクアポリン / 細胞培養 |
研究概要 |
平成23年度には和歌山県太地町の追込み漁で捕獲されたバンドウイルカの器官を用いて以下の成果を得た.1. mRNAおよびゲノム解析により,同種イルカの多くの器官に発現している"未知のアクアポリン(AQP:当該AQPを以下AQPXと略す)"が,あるAQPの遺伝子(AQPx)からalternative splicingにより発現することを明らかにした.また,ゲノムデータベースおよびヒゲクジラを亜目を含む7科の鯨種のゲノムを用いた解析により,AQPXは鯨類以外の動物種では産生され得ない一方で,鯨種間ではAQPXの配列が非常に高度に保存されていることを突き止めた.このことは,AQPXが彼らの生存にとって必要である可能性を示している.2. 組織試料を用いてRT-PCRによりAQPXの発現の有無を確認したところ,使用した19器官の全てにおいて発現が認められたのに対し,AQPxの発現はごく限られた器官でのみ確認された.また,AQPXに対する特異的抗体を作製して免疫組織染色を行ったところ,複数の器官および培養腎細胞での分布が確認された.3. 培養したイルカの腎細胞を用いて,NaClおよびマンニトールを培養液に添加して細胞外液を高張にしたところ,いずれにおいても等張環境下よりもAQPXの発現量が増加した.一方で,AQPxの発現量には変化がなかったことから,同一の遺伝子から発現するにも関わらず,高張環境下ではAQPXが選択的に発現されてくると示唆された.また,AQPXの発現は塩濃度ではなく浸透圧の上昇により誘導される可能性が示された.4. AQPXの機能を解析するため,AQPX,AQPxおよび内部標準GAPDHのsiRNAを作製し,それらをイルカ腎細胞への導入することを試みたが,初代培養細胞を用いたため導入効率が悪く,ノックダウンには成功していない.現在,siRNAの導入手法を検討中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1. 平成23年度に遂行する予定であった事項(追い込み漁で捕獲されたバンドウイルカからの試料採取,初代培養細胞の回収および培養条件の検討,AQPXの発現分布解析,細胞の浸透圧耐性の検討)に関しては,おおむね遂行が完了した.2. 平成24年度以降に行う予定であったsiRNA実験に関しても,siRNAの導入ならびにreal time PCRに関する最良な条件を検討している最中ではあるものの,平成23年度中に始動することが出来た.また,同様に平成24年度に行う予定であった細胞外液のNa+濃度の変化に伴うAQPXの発現動態についてもほぼ解析を終え,比較のためにマンニトール添加による高浸透圧環境下でのAQPXの発現動態の変化についても解析を行った.3. 細胞培養に関しても予想以上に順調に成果を上げており,腎臓,皮膚,小腸,胎盤に関してはまだ条件検討が必要なものの,初代培養細胞を回収することが出来た.細胞を不死化することには未だ成功していないが,これについては現在試行している最中である.今後は新たに得る試料および回収した細胞を用いてsiRNA導入のための検討を進められるため,当初予定していた項目を完遂することが可能であると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
1. 細胞培養:追い込み漁もしくは動物飼育施設で死亡した個体から得られたバンドウイルカの各器官を用いて,平成23度と同様に細胞の培養を行い,より多くの器官および個体数での培養細胞を目指す.培養できた細胞を回収するとともに.不死化した細胞および幹細胞もしくは多分化能を有する細胞の単離を試みる.また,前年度に培養に成功しなかった肝臓,膵臓,筋肉の細胞培養については優先して行う.2. 細胞外液の浸透圧変化によるAQPXのタンパク質量動態解析:腎臓およびそれ以外の培養細胞に対して,NaClまたはマンニトール添加により外液(培地)の浸透圧を段階的に変化させ,AQPXを含めたAQPのタンパク質量の変化をwestern blottingにより確認する.3. siRNAによるAQPXノックダウンおよび機能評価:AQPXPのmRNAに相補配列をもつ二本鎖siRNAを各々培養細胞に導入してRNA干渉を起こさせる最良の条件を検討した後,培地の浸透圧を変化させて以下の実験を行ない,AQPXの機能を解析する.(1)細胞の基礎活動への影響評価:siRNAの非存在下でhouse keeping geneが発現していることを確認した上で,siRNAの存在下でもその発現量に増減がなく,細胞活動が正常に行なわれていることを確認する.(2)タンパク質の解析:siRNAの添加によりAQPXの各タンパク質量が低下していることをウエスタンブロッティングおよび免疫染色により確認する.(3)細胞の高浸透圧耐性分析:siRNAにより細胞の形態変化,DNAの破壊やアポトーシスの程度に違いが生じるか否かを確かめることにより,AQPXの細胞の浸透圧耐性への関与を明らかにする.
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 細胞培養:細胞培養の遂行に必要な培地関連試薬(培地,抗生物質,牛胎子血清,Dimethyl sulfoxide等),培養プレートおよびチューブ,滅菌ピペット,細胞保存用液,細胞生死判定試薬等を購入する.2. 細胞外液の浸透圧変化によるAQPXのタンパク質量動態解析:タンパク質量の変化を調べるため,western blottingに必要な泳動用ゲル,転写用メンブレン,標識二次抗体などを購入する.3. siRNAによるAQPXノックダウンおよび機能評価:各遺伝子発現動態を調べるため,real time PCR関連試薬類(RNA抽出kit,cDNA作製用試薬,qPCR用反応液等)を購入する.また,培養細胞上でのタンパク質の免疫染色を行うため,蛍光標識第二抗体およびチャンバー付きスライドグラスを購入する.
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