研究課題
前年度の結果を踏まえ、平成24年度はバンドウイルカ胎盤での遺伝子発現がすでに証明されている黄体形成ホルモン(LH)(Watanabe et al., 2007)を、黄体組織からタンパク質として分離・精製することを目指した。通常の方法でSDS-PAGEやWestern blottingを行っても、37-70kDaのタンパク質が多量に存在するため、LH分子の検出は不可能であった。これらの巨大分子の大部分はヘモグロビンやそのサブユニットと考えられたため、抽出前の胎盤組織の血液成分をPBSで充分洗浄したところ、電気泳動後の個々のバンドが明瞭に検出されるようになった。次に、ヒツジLHの標品を用い、還元処理した後に電気泳動にかけ、α-subunitとβ-subunitの分子量を確認したところ、前者は約20kDa, 後者は約18kDaであることがわかった。これをもとに、改良した抽出法で新たにバンドウイルカ胎盤組織よりLH様分子の精製を試みた。今回は組織の量を増やし、脱血処理した後、糖タンパク質を抽出し、アセトニトリルの濃度勾配による高速液体クロマトグラフィーにより3分ごとに分取し、それぞれの画分をSDS-PAGEで調べたところ、画分4でLH-αまたはLH-βと思われる、20kDaまたは18kDaのバンドが得られた。今後、これらのタンパク質が実際にバンドウイルカのLH-αまたはLH-βであるかを確かめる予定である。一方、バンドウイルカ胎盤のLH-β遺伝子については、双角子宮の部位ごと、および妊娠中期と後期の子宮について発現を比較した。対照とした下垂体では常に高い発現が認められたが、胎盤のLH-βは双角子宮の左右接合部に近い部分に、比較的強い発現が認められた。
2: おおむね順調に進展している
2010年までに太地でのサンプリングで得られたバンドウイルカの胎盤を用いて、平成24年度は黄体形成ホルモン(LH)をタンパク質として胎盤組織より単離・精製することを試みた。組織の脱血など試料調製法を工夫することによって、HPLCとSDS-PAGEを組み合わせ、LH-βと思われるタンパク質を検出することができた。今後、アミノ酸配列などで確認する必要がある。バンドウイルカの双角子宮におけるLH-βの発現が、部位ごとに異なることも明らかとなった。さらに新たなサンプリングを実施して、例数を増やして確認したい。
24年度は人員の都合でサンプリングを実施することができず、新たなバンドウイルカのサンプルが得られなかった。そのためFSHについては充分なデータが得られず課題が残った。25年度はサンプリングを実施できる予定なので、新しい胎盤サンプルを用いて、胎盤組織からのFSHタンパク質の単離・精製を試みたい。
太地でのバンドウイルカ漁開始後、なるべく早い時期からサンプリングを実施し新鮮な下垂体あるいは胎盤サンプルを用意する。そのための旅費を確保する。これまでの研究からバンドウイルカの下垂体性と胎盤性のLHおよびFSHは同一分子であることがわかったので、抽出の効率の高い下垂体からそれぞれのホルモンを単離し、抗体作製の抗原として用いる。抗体作製は外部に委託する予定である。
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General and Comparative Endocrinology
巻: 177 ページ: 76-81
Toxicon
巻: 60 ページ: 1000-1004