CD34は造血幹細胞などに発現する膜貫通型の糖蛋白質で、生理的役割は十分解明されていないが、ヒトや多くの哺乳動物の造血幹細胞マーカーとして広く利用されている。CD34に関する知見は陸棲哺乳類では数多くの報告があるが、海棲哺乳類においては著しく少ない。最終年度は、イルカの体内でのCD34の発現および分布を明らかにするために、各臓器のCD34 mRNA発現量および特異抗体を用いたCD34蛋白質の発現分布を調べた。 イルカCD34 mRNAは、肺、腎臓、脾臓、骨髄および胸腺の順に高発現が認められた。CD34は造血幹細胞以外にも血管内皮細胞で強く発現する。肺をはじめとする上記組織には毛細血管が豊富に分布しているため、高値を示したと考えられた。抗イルカCD34抗体を用いた免疫組織化学染色では、骨髄以外にも腎臓の尿細管および集合管、胸腺、および肺胞周囲の内壁が明瞭な陽性反応を示し、造血細胞および血管内皮細胞でのCD34蛋白質発現が確認された。 研究期間全体を通じて、本研究課題であった、イルカの造血幹細胞分離のためのCD34遺伝子を同定し、組換え型イルカCD34蛋白質およびその特異抗体を作製した。抗体を利用して、イルカ体内におけるCD34の分布を明らかにするとともに、骨髄がCD34陽性細胞である造血幹細胞を含む造血器官であることを証明し、骨髄細胞から造血幹細胞の濃縮単離法を確立できた。
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