研究課題/領域番号 |
23580272
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研究機関 | 独立行政法人水産総合研究センター |
研究代表者 |
坂本 節子 独立行政法人水産総合研究センター, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (40265723)
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キーワード | 有害有毒プランクトン / シスト / 発現遺伝子 / 休眠 / 発芽 |
研究概要 |
有害渦鞭毛藻の出現動態は栄養細胞や休眠接合子(シスト)などの機能的に分化した細胞が環境の変化に応じて出現する生活史によって大きく変化する。本研究はこれまで現象の観察に止まっている渦鞭毛藻の生活史の制御機構解明を目指すものであり、特にシストの休眠から発芽の過程で特異的、差次的に発現する遺伝子を特定して、シストの休眠および発芽の誘導・制御機構を明らかにすることを目的としている。 今年度は、下記の研究を実施した。 1.有毒渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumのシストに特異的に発現している遺伝子の配列解析:G. catenatumの栄養細胞とシストから得られたcDNAを基にランダムプライマーを用いてPCR増幅し、得られた産物のディファレンシャルディスプレイ(DD法)を実施して、シスト試料に特異的に得られる増幅産物を抽出した。これをクローニングした後、DNAシーケンサーで塩基配列を解析した。得られた配列についてBlast検索を実施した結果、Chlamydomonas reinhardtiiのDNA methyltransferase(E-value 0.011, ident 73%)、Symbiodinium sp.の光合成関連タンパク質light-harvesting protein(E-value 3e-29, ident 67%)と高い相同性を示す配列が得られた。 2.シスト発芽の各過程で特異的に発現する遺伝子の解析準備:実験に用いる材料を得るためG. catenatumのシスト形成を試みたが、今年度はシストが全く形成されなかった。そこで、新たに天然細胞から培養株を複数分離し、既存の培養株と混合培養したところ、シスト形成可能な培養株を得ることができた。これを培養して得られたシストを約1000細胞分離し、10℃暗所でシストを休眠させている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は、計画していたシストの発芽過程の各段階における発現遺伝子の解析には至らなかった。その要因として、G. catenatum培養株がシストを形成しなくなってしまったことが挙げられる。シストが形成されなくなった原因がわからないため、培養条件の変更や既存の培養株からのシスト形成株の選抜など培養条件の検討を実施し、それに多くの時間を費やしてしまった。最終的に、2014年3月に長崎県沿岸で本種が発生したことから、新たに天然細胞を分離して培養株を複数株作製し、既存の培養株とのシスト形成を試みたところ、新たに得られた4株が既存の培養株との混合培養によりシストを形成することが確認できた。これらの培養株を大量培養することによりシストを大量に得ることができ、異なる発芽過程の発現遺伝子を比較解析できる目処が立った。当初の計画より遅れてしまったが、現在シストの発芽過程の各段階における発現遺伝子の解析を実施するための準備が進んでいる。一方、シスト期に発現している遺伝子のPCR増幅断片の解析については、機能性遺伝子と思われる新たな部分配列を複数得ることができた。これらの状況から研究は少しずつ進んではいるものの、予定通りの成果は得られていないことから自己評価は遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
培養におけるG. catenatumシストの形成が予定通りにできなかったことにより、本研究は当初の研究計画より遅れているが、今年度に天然細胞より新たに培養株を確立できたことにより、ようやくシストを大量に形成して研究材料として使用できる目処がついた。次年度は、下記の研究を進めることでより多くの発現遺伝子の配列データを入手したいと考えている。 1.シスト発芽の各過程で特異的に発現する遺伝子の解析:分離して10℃暗所で休眠させているシストを発芽に好適な条件に移し、経時的にそのシストを採取する。採集したシストを用いてcDNAライブラリーを作製し、DD法を実施して各段階で発現している遺伝子の配列解析を試みることにより、発芽段階毎の発現遺伝子の特徴を押さえる。また、cDNA作製時にオリゴdTプライマーを用いて増幅し、できるだけ多くのmRNA配列の3'末端の解析を試みる。 2.次世代シーケンサーを用いたmRNA-Seq解析によるシストの発現遺伝子解析:近年、大量の遺伝子配列情報を得ることができる次世代シーケンサーによる解析は、発現遺伝子の情報を得る上でも有効な手段となってきている。また、非常に少量の試料からmRNAを解析できる技術がキット試薬等で提供されている。そこで、これらのキット試薬を用いて栄養細胞と休眠シストの発現遺伝子の比較解析を試みる。これにより多くの配列情報が得られることが期待される。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、より多くの発現遺伝子配列情報を得るために遺伝子解析の一部を外部委託により実施する予定であったが、生物材料が計画通りに調製できなかったため実施できなかった。そのため解析に必要な試薬類購入費および外部委託のための費用を繰り越した。 今年度末にようやく生物材料の準備ができ、次年度中には計画していた遺伝子解析を実施できる目処が立ったことから、当初の計画通りに遺伝子解析のための試薬消耗品購入および遺伝子解析の外部委託費として使用する。
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