研究実績の概要 |
有害渦鞭毛藻の出現動態は、栄養細胞や休眠接合子(シスト)などの機能的に分化した細胞が環境の変化に応じて出現する、生活史によって大きく変化する。本研究は、これまで現象の観察にとどまっている渦鞭毛藻の生活史の制御機構解明を目指すものであり、特に、シストの休眠から発芽の過程で特異的、差次的に発現する遺伝子を特定して、シストの休眠および発芽の誘導・制御機構を明らかにすることを目的としている。 昨年度までに有害渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumの栄養細胞およびシストからRNAを抽出、cDNAを作製した。ランダムプライマーで増幅したPCR産物から、ディファレンシャルディスプレー法により、シスト特異的に得られる増幅産物を抽出した。これをクローニングして、DNAシーケンサーで塩基配列解析し、得られた配列のBlast検索を実施した結果、クラミドモナスのDNA methyltransferaseや褐虫藻Symbiodiniumの光合成関連タンパク質light-harvesting proteinと比較的高い相同性を示す配列を得た。これらの結果は休眠中のシスト細胞の中でDNAのメチル化による何らかの遺伝子発現が制御されている一方で、光捕集タンパク質が発現して光を感知する準備をしていることを示唆する。 今年度は、シスト期の細胞からより多くの発現遺伝子の配列情報を得るため、G. catenatumシストに発現している遺伝子を次世代シーケンサーで網羅的に解析し、116,244のコンティグ配列(最長17,904b、平均長821b)を得た。現在、得られた配列を既存の栄養細胞の配列と比較して、発現遺伝子の差異について詳細な解析を進めている。本研究で得られたシスト細胞の発現遺伝子は、発芽というイベントを生体内の分子の動きから理解するうえで重要な情報となるだろう。
|