研究概要 |
ナイシン耐性リステリア菌を人為的に作出し, 発育特性および抗菌物質感受性を調査した。1.ナイシン耐性出現頻度の調査:最小発育阻止濃度 (MIC) の4倍量のナイシンAを添加した液体培地にリステリア菌を接種し, 30℃で1時間保持後の生残率から耐性出現頻度を算出した。ナイシンのMIC値が7.81 μg/mlのIID577株の耐性出現頻度は1.2×10-5, MIC値が1.95 μg/mlのATCC7644株では1.0×10-8以下であり, リステリア菌のナイシン感受性が高いほど耐性出現頻度は小さかった。2.ナイシン耐性リステリア菌の作出および発育動態調査:ナイシン含有平板培地にリステリア菌を接種し, 30℃で培養後, 平板上に出現したコロニーから45株のナイシン耐性株を得た。耐性強度の違う3株を選抜し,その発育特性を調べた。ナイシン耐性株の低温(4℃,8℃)、酸性(pH 5.0,6.0)およびNaCl存在下(3%、10%)における発育は,その誘導時間および最大比増殖速度を比較すると親株と同等以下となり、ナイシン耐性獲得による発育特性の大きな変化はなかった。3.ナイシン耐性リステリア菌の各種薬剤感受性の検討:ナイシン耐性リステリア菌の食品添加物および抗生物質に対する感受性をMICまたはディスク拡散法で調べた。ナイシン耐性株では耐性強度によらず, 卵白リゾチーム, ε-ポリリジン, プロタミンに対する感受性が低下し、タンパク質性抗菌物質に対する交叉耐性の獲得が確認された。一方,その他の非タンパク質性の抗菌物質に対する感受性はほとんど変化なかった。抗生物質に対しては,全てのナイシン耐性株でポリミキシンBに対する感受性が低下したが、アンピシリンやテトラサイクリンに対しても菌株毎に異なる感受性変化が見られたことから多様な耐性機構を持つ可能性が示唆された。
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