研究課題/領域番号 |
23580279
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
石田 真巳 東京海洋大学, 海洋科学部, 准教授 (80223006)
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研究分担者 |
高野 和文 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (40346185)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 低温菌 / 低温高活性 / 酵素 / 結晶解析 / タンパク質工学 |
研究概要 |
結晶構造解析に成功し、立体構造が明らかになった低温菌Shewanella frigidimarina K14-2由来トリプトファン合成酵素αサブユニットの立体構造についての研究成果は、酵素の内部構造の詳細な比較等を行い、投稿準備中である。 平成23年度の主要な研究目的であった低温菌酵素の低温高活性構造の解析については成果が得られた。即ち、上記の結晶解析に基づいて、低温高活性に影響する部位を4箇所推定した。それらの部位の各々について、タンパク質工学によって中温菌由来対照酵素の同部位のアミノ酸に置換した変異酵素を作製した。4箇所の部位とは、同酵素のloop-Aを支える3箇所とloop-Bを支える1箇所である。結果として、loop-Bを支えるLeu210を対照中温菌型のGlnに置換したところ、低温での活性が低下した。loop-Aを支えるSer72とThr77については中温菌型に置換しても活性の温度依存性は大きくは変わらなかった。また、loop-Aを支えるPhe53を中温菌型のIleやValに置換した場合は全体に活性が低下し、構造安定性に影響する部位であると推定された。これらの成果は極限環境生物学会年会(平成23年11月 長崎)で発表した。また、重要性が示されたLue210での変異結果を明確にするため、同部位に限定して同属アミノ酸Ileや性質の異なるGlu等に置換した変異酵素を作製して、精製し、比較した。その結果、同部位が疎水性アミノ酸の場合のみ低温での活性が高いことが確認された。この成果は日本水産学会春季大会(平成24年3月 東京)で発表した。 平成23年度の2番目の目的であった、低温菌トリプトファン合成酵素α2β2複合体の結晶解析については、初期の結晶生成はできたが、結晶が構造解析に必要な大きさに成長せず、観察を続けながら成長条件を探しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低温菌S. frigidimarina K14-2由来トリプトファン合成酵素αサブユニットの結晶構造解析結果については、投稿原稿がほぼ完成して平成24年前半の論文発表を目指している。 低温菌の同酵素αサブユニットの低温高活性をもたらす部位を特定することが出来たのは本年度の大きな成果であった。従来、低温菌酵素は構造の柔軟性を上げて低温活性を保持すると言われていたが、本研究課題によってloop-Bという構造の低温での動きをスムーズにするようなLeu210の構造に意味があることが確認できた。このような部位の特定は難しく、本研究課題の中でもloop-Aで推定した3箇所は低温高活性には直接的影響のない部位であった。さらに、Leu210を中温菌型Glnに置換した変異酵素を作製するのみならず、この部位に限定して複数の変異酵素を作製、比較することにより、この部位が疎水性アミノ酸であることの重要性が明確になった。これらの成果は予想以上のものであり、本研究課題の根幹となるものと言える。 低温菌の同酵素α2β2複合体の結晶構造解析により、より総合的に低温高活性の仕組みを理解することを計画しているが、この複合体の結晶が期待した様に成長しなかった。対策としては、溶液の条件等を微妙に変えて結晶成長を待つしかないので、観察を続けながら、結晶化溶液の種類を増やすことも検討している。 進化工学による低温菌トリプトファン合成酵素の熱安定化については、変異酵素を選別するスクリーニング温度条件検討等の準備を進めた。また、トリプトファン合成酵素に加えて、進化工学に供する試料として他の低温菌由来プロテアーゼが組換え体で生産できるように準備した。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初の研究計画に沿って進める。 トリプトファン合成酵素αサブユニットの低温高活性部位の解析については、平成23年度の成果で低温高活性をもたらす部位を選出することができたため、中温菌の同酵素のアミノ酸残基を低温菌型に置換する逆変異を重点に進める。低温菌酵素ではLeu210→Glnで低温活性が低下した。この結果を基に、中温菌E. coli由来同酵素のGlnを逆にLeuにする等の逆変異を行い、元々低温での活性が低かった中温菌酵素を低温高活性にできるか検討する。期待される結果が得られれば、低温菌酵素の構造の特徴を中温菌酵素に適用して低温高活性化することになる。 同酵素α2β2複合体の結晶構造解析については、結晶成長の条件を見つけるため、溶媒の種類を更に増やすなどの対応を加えて継続する。構造解析の可能性のある結晶は、SPring-8での構造解析を行う。 進化工学による低温菌酵素の熱安定化については、熱安定化した変異酵素を野生型酵素と識別するために必要な選択温度条件を決めることから始め、計画通り遺伝子のランダム変異を進める。500~1000の変異株を作製・比較して、複数の異なる、熱安定性の向上した変異型酵素の作出を目指す。熱安定性が上がった候補変異株については、酵素を精製して野生型との正確な比較を行い、変異部位を塩基配列分析で特定する。どのような変異酵素が何種類得られるかによって、変異酵素に更に変異を重ねていく、異なる変異型酵素間でシャッフルする等の進め方を検討する。熱安定化の研究材料として、計画段階で予定していたトリプトファン合成酵素αサブユニットに加えて、組換え体での酵素生産に成功した低温菌由来プロテアーゼも加える。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の要求に従って研究費を使用する。当初の計画では、酵素精製、結晶化、タンパク質工学(進化工学も含まれる)、遺伝子の塩基配列解析のための試薬および器具類の消耗品を中心に要求した。また、SPring-8への旅費も要求した。 今年度の研究の進め方に沿って、中温菌トリプトファン合成酵素の逆変異型酵素の作出およびその性質解析には、タンパク質工学の試薬とDNAプライマー、酵素精製関係、酵素と遺伝子の分析関係の消耗品が必要である。また、進化工学による熱安定化の研究も、タンパク質工学関係の消耗品が必要である。得られた変異型酵素については、酵素を精製し、酵素の性質を分析するとともに遺伝子の解析を行って変異を確認するので、これらの消耗品が必要である。 酵素複合体の結晶化を継続するため結晶化関係、酵素精製関係の消耗品が必要であり、構造解析の候補となる結晶はSPring-8で解析を試みるため、旅費も必要である。
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