研究課題/領域番号 |
23580279
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
石田 真巳 東京海洋大学, 海洋科学技術研究科, 准教授 (80223006)
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研究分担者 |
高野 和文 京都府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (40346185)
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キーワード | 低温菌 / 低温高活性 / 酵素 / 安定性 |
研究概要 |
低温菌Shewanella frigidimarina由来トリプトファン合成酵素αサブユニット(以下、低温菌酵素)の特徴を、低温高活性であることだけでなく変性しやすさ等も含めたタンパク質化学的全体像で大腸菌αサブユニット(以下、中温菌酵素)と比較することを中心に実施した。変性挙動については油谷克英(理研)らの協力を得て、グアニジン塩酸存在下での低温菌酵素と中温菌酵素の変性速度等を測定した。その結果を結晶構造や熱測定の結果と合わせて検討し、低温菌酵素の変性しやすさが変性と復元の速度の違いによること、大腸菌酵素が多段階変性を示すのと対照的に低温菌酵素は単純な二状態変性を示すことによることが分かった。この結果は、第13回極限環境生物学会年会(平成24年12月 東京)で発表した。 また、広い温度範囲で活性を比較するために、従来法では共存酵素GADHの熱変性で無理があったので、インドール定量という別法によって5~55℃まで広範囲の活性を測定した。その結果、低温菌酵素は、低温域のみならず測定した全温度範囲で中温菌酵素より高い活性を示した。最大活性は、低温菌酵素が40数℃で、中温菌酵素の45℃と僅かな違いしかなく、両酵素の熱安定性が大差ないために高温側温度域でも低温菌酵素の活性の方が高いと考えられた。この結果を含めて本低温菌酵素の特徴を中温菌酵素のそれと比較し、まとめた投稿論文を現在、作成中である。 熱安定化に関しては、計画している低温菌プロテアーゼで進化工学のランダム変異を行う範囲を短縮できるか、前駆体プロ領域の欠失を行った。その結果、プロ領域を欠失させた組換え体ではプロセッシングされず、25℃でも30℃でも成熟酵素が生産されないことが分かった。前駆体全体の遺伝子では25℃で成熟酵素が生産される。この結果は、平成24年度日本水産学会秋季大会(平成24年9月 下関)で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度までの低温菌酵素と中温菌酵素の活性の比較は低温域が中心で、高温域での挙動や安定性の分析が不十分であった。本年度は低温菌酵素の変性挙動や広範囲の温度域での活性を測定して、酵素のタンパク質化学的な特徴の全体像を明らかにした。これによって、低温菌酵素というものが、中温菌酵素に比して安定性をある程度犠牲にして高活性を得るという特徴が明確になった。この結果を昨年度までの結果に加えて、総合的に低温菌酵素の特徴をまとめた投稿論文を現在、作成中である。 低温菌酵素の進化工学による熱安定化については、トリプトファン合成酵素と共に計画しているもう一つの研究試料である低温菌Vibrioプロテアーゼで進んだ。進化工学による変異酵素の分析・解釈をスムーズにするために、酵素前駆体のプロ領域の欠失が可能か調べた。その結果、組換え体中ではプロセッシングが阻害されることが分かり、現在、前駆体酵素の遺伝子を実験材料として進化工学を開始している。 低温菌トリプトファン合成酵素のβサブユニットおよびα2β2複合体の結晶化については、24年度中には結晶成長が認められなかった。本研究課題の目的である低温菌酵素の低温高活性構造の解明については、詳細な分析まで進行しているαサブユニットの結果を中心に解析結果を整理することで説明できると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初の研究計画に沿って、大きく3つの項目を進める。1番目は、低温菌トリプトファン合成酵素の結晶構造・活性・安定性を分析し、常温菌の同酵素のそれらと比較考察した論文を投稿することである。これが本研究課題の成果の中心となる。 2番目は、低温菌プロテアーゼの進化工学による熱安定化変異酵素を作成することである。現在、始めているランダム変異導入実験を進め、熱安定化変異酵素を得ることを目指す。既に、ある程度の相同性が認められる他細菌由来の類似プロテアーゼで立体構造が推定されているので、本課題で得られた変異酵素の安定化の仕組みについて推定し、論文の投稿を目指す。 3番目は、低温菌トリプトファン合成酵素の解析で得られたLeu211部位の大腸菌酵素における低温菌型変異酵素を作成することである。詳細な物理化学的な検証には時間がかかると予想されるが、変異酵素の活性の温度依存性が野生型酵素と比して低温菌型に変化したかを明らかにするのを目指す。 トリプトファン合成酵素複合体等の結晶化の観察を続けている試料については、平成25年度も観察を続け、結晶成長が見られたらSPring-8にて回折実験を行い、構造を決定する。 これらの結果を総括して、低温菌酵素の特徴、即ち、なぜ低温活性が高いのか、安定性は常温菌酵素とどのように違うか、安定化はできるのか、などの成果の報告をまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(B-A)として107,407円を繰り越した。これは、平成24年度中に投稿予定であった論文の投稿が平成25年度になったためである。投稿を予定している学術雑誌には投稿費用が10数万円かかることが予想される。 平成25年度に計画している、「その他」の経費は投稿論文および研究課題の成果報告書作成(上の投稿費用の不足分も含む)を実施するために必要なので計画通り要求した。 平成25年度に使用する経費の中心は、上記の研究の推進方針に従い、トリプトファン合成酵素およびプロテアーゼの変異酵素と遺伝子の作成、精製、性質の分析などに必要な消耗品費なので、当初の計画通りに要求した。結晶成長観察を継続しているタンパク質のSPring-8での回折実験のために必要な旅費も計画通り要求した。
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