研究課題/領域番号 |
23580280
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浅川 学 広島大学, 生物圏科学研究科, 准教授 (60243606)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 構造多糖類 |
研究概要 |
亜熱帯域に生息する有毒甲殻類の甲殻を研究対象としてキチンなどの新規機能性構造多糖類を探索する過程で、食中毒原因種であるオカヤドカリ科ヤシガニBirgus latro甲殻にズワイガニ甲殻に主成分として含まれるキチンとはその諸性状が異なる構造多糖類の存在することが認められた。本研究では、1)ヤシガニ甲殻中の機能性構造多糖類(I)の諸性状の解明、2)機能性多糖類より精製されるキトサン(II)の諸性状の解明、3)構造多糖類(I)より調製される機能性ゲルの諸性状とその微細構造の解明、ならびに4)上記3点を総括する高次有効利用法の検討を目的としている。初年度となる平成23年度は、B. latroを沖縄県石垣島で採取し、まず、その甲殻から対象となる構造多糖類(I)を精製する方法を確立する。次いで、得られた構造多糖類(I)の物理的強度をはじめとする物性測定を既知物質であるズワイガニ甲殻から精製されるキチンの物性と比較しながら行う。この際、構造多糖類の微細構造を電子顕微鏡により観察し、構造強度相関を考慮しながら考察する。精製法については、塩酸による脱灰、アルカリによる除タンパク、過マンガン酸カリウムによる脱色による一連の精製法が適しており、本精製法によりヤシガニ甲殻から収率24%で淡黄色の構造多糖類(I:キチン)が得られた。一方、ズワイガニからは収率32%で純白のキチン(構造多糖類)が得られた。次いで、これらキチンの表面構造を電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)にて観察した。その結果、ヤシガニ由来のキチン(I)が層状構造であるのに対してズワイガニ由来のキチンは繊維状構造であり、両者の強度に明瞭な違いが認められた(素材としての強度:ヤシガニ由来キチン>ズワイガニ由来のキチン)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の本研究課題における主目標は、1)ヤシガニ甲殻中の機能性構造多糖類(I:キチン)の諸性状の解明、2)機能性多糖類より精製されるキトサン(II)の諸性状の解明、3)構造多糖類(I)より調製される機能性ゲルの諸性状とその微細構造の解明、4)上記3点を総括する高次有効利用法の検討を目的としている。本研究で必要となるヤシガニ甲殻からの構造多糖類(I)の供給に関わる精製法を確立することができた。また、本法により精製されるヤシガニ甲殻由来キチン(I)は、同じ方法でズワイガニ甲殻より精製されるキチンと明らかに強度の点で両者に明瞭な差があり、特に、FE-SEMによるキチンの表面構造に明瞭な差異が認められた。すなわち、ヤシガニ甲殻由来キチンでは、表面が多くの板(面)による層状構造であるのに対して、一般的なズワイガニ由来キチンは、多くの繊維状の組織が複数観察され、このような構造上の差異が組織強度に反映されているものと考えられた。また、これら精製物より調製されるホルムアルデヒドゲルの強度は、レオメーターによる測定の結果ヤシガニ由来のものが、ズワイガニ由来のものに比べおよそ6倍の強度を示した。正確な分子量を求めることはできなかったが、ヤシガニ甲殻には明らかに物性の異なる構造多糖類(キチン)の存在することが明らかとなり、おおむね目標は達成されたものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成23年度に得られた結果を基にして、さらに構造多糖類の詳細な構造解析も含めながら主として高次有効利用法を念頭に置き研究を推進する予定である。(1)精製したヤシガニ由来高機能性構造多糖類(I)の化学構造について、比較対象として用いるズワイガニ由来のキチン標品などの機器分析データとも照らし合わせて考察する。また、高機能性構造多糖類(I)より得られるキトサン様物質(II)を回収し、二枚貝毒化原因種である渦鞭毛藻に対する殺藻活性の評価を行う。また、脱アセチル化度の異なるキトサン様物質(II)を調製し、その殺藻能威力とアセチル基の関係について検討する。一方、沖縄県石垣島で可能な限りオウギガニ科有毒カニ類を採取し、本種における構造多糖類(I)の含有量や分布についても調査・検討する。(2)精製したキトサン様物質(II)をホルムアルデヒドでN-アリリデン化することにより、 "保水性"に優れたゲルを調製する。なお、保水性の評価は十分に乾燥させたゲルに水を添加することによるゲルの乾燥時の体積に対する膨潤後の体積の比として求める。また、ゲル強度をレオメーターにより測定する。一方、上記、ホルムアルデヒドゲルの自然乾燥および凍結乾燥薄膜を調製した後、両者の微細構造を走査型・透過型電子顕微鏡により観察する。このキトサンホルムアルデヒドゲルの高保水性について、キチン標品(ズワイガニ由来)より調製されるゲルの保水性および薄膜の微細構造と比較しながら検討を加える。さらに、亜熱帯域に生息する有毒甲殻類から精製される高機能性構造多糖類(I)のバイオマテリアルとしての可能性・応用上の問題点を3年間のデータを整理・総括しながら総合的に考察するとともに、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、前年度確立された構造多糖類(I)の精製法をヤシガニ以外の南西諸島産オウギガニ科有毒ガニ(ウモレオウギガニ、スベスベマンジュウガニなど)甲殻にも応用し、由来の異なる構造多糖類(I)の調製を試みる。また、ヤシガニ由来の構造多糖類(I)の他、調製されるヤシガニ以外の生物種由来の各種構造多糖類についても昨年度に引き続いて物理的、化学的諸性状の解明に努める。一方、今年度はさらに上述の様に調製した各種構造多糖類およびそれらから誘導されるキトサンの有効利用法を模索する。その一つが、二枚貝を毒化させる原因となる麻痺性貝毒産生能を有する有毒渦鞭毛藻類(Alexandrium tamarenseやA.catenellaなど)の殺藻活性の検証である。以上が、平成24年度の研究計画の概略であるが、本計画達成のため、今年度措置される研究費を主として有毒甲殻類からの構造多糖類(I)の精製および諸性状を解明する際に機器分析などで必要となる試薬類およびヤシガニやオウギガニ科カニ類の毒性評価に使用する実験動物(マウス)の購入に主として使用する予定である。また、研究費の一部は、沖縄県石垣島における試料採集及び学会における情報収集のための旅費として使用する。
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