研究課題/領域番号 |
23580282
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
荒川 修 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 教授 (40232037)
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研究分担者 |
高谷 智裕 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科, 准教授 (90304972)
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キーワード | テトロドトキシン / トラフグ / ツムギハゼ / 生殖腺体指数(GSI) / 肝量指数(HSI) |
研究概要 |
昨年度は、早熟な人工交雑フグを用いたテトロドトキシン(TTX)投与実験により、フグでは性成熟が毒の体内動態に関与することを明らかにしたが、その過程で成熟のみならず個体の成長も毒の動態に影響を及ぼすことが示唆された。そこで、6ヶ月齢と15ヶ月齢の無毒養殖トラフグを用いてTTXの経口投与実験を行い、24時間後のTTX体内分布を比較したところ、6ヶ月齢魚では皮と肝臓のTTX量はともに消化管と同程度であったのに対し、15ヶ月齢魚では肝臓のTTX量が他の部位より著しく高かった。また、6ヶ月齢魚では投与毒量の31% が蓄積しており、その71% が皮に、21% が肝臓に分布していたのに対し、15ヶ月齢魚では84% が蓄積しており、その83% が肝臓から、14% が皮から検出された。生殖腺体指数(GSI)と生殖腺組織の成熟段階は雌雄ともに両月齢魚間で大差なかったが、肝量指数(HSI)と肝細胞の直径は15ヶ月齢魚の方が6ヶ月齢魚より大きかったことから、トラフグでは肝臓の発達に伴い、それまで主に皮に移行ないし排泄されていたTTXの多くが肝臓に移行・蓄積するようになるものと推察された。一方、成熟段階毎に個体を入手することがきわめて困難なトラフグに代え、フグ以外で唯一のTTX保有魚類であり、周年的に個体を採取することが可能なツムギハゼを用いて、性成熟に伴うTTX体内分布の変化を調査したところ、卵黄形成期から産卵期盛期にかけて、性成熟(卵巣の成熟段階の進展)に伴い卵巣に移行・蓄積するTTXの割合が顕著に上昇することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、成熟段階の異なる天然トラフグ個体群を入手することができず、また、Trタンパク質〔サキシトキシン (STX)/TTX結合性タンパク質(PSTBP)相同タンパク質〕に対する抗体の供給が遅れたため、当初の計画を変更して養殖トラフグ低月齢/高月齢魚へのTTX投与実験とツムギハゼの毒性調査を行った。従って、成熟に伴うTrタンパク質アイソフォームの発現状況や組織内微細分布の変化を明らかにすることはできなかったが、前述のとおり、トラフグでは成熟のみならず個体の成長も毒の動態に影響を及ぼすことを初めて明確に示すことができた。現在、雌性ホルモン(Estradiol-17ß; E2)の投与による養殖トラフグ催熟実験の準備も着実に進んでおり、3年計画全体としてみれば、おおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、ほぼ当初の計画に沿って、無毒養殖トラフグ2年魚を対象に、E2投与後、さらにTTXを投与する‘催熟 - 毒投与実験’を行い、TTXの体内分布の経時的な推移とTr タンパク質アイソフォームの発現状況を調べて、E2非投与の場合と比較する。他方、抗Trタンパク質抗体を用いてE2投与/非投与個体もしくは天然の成熟/未成熟個体における組織内Trタンパク質微細分布の差異や毒の分布との対比を明らかにし、Trタンパク質の機能や毒化における役割について総合的に考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、実験材料(トラフグ)入手の都合上、Trタンパク質の発現状況の検討や組織内微細分布の可視化を行わなかったこともあり、試薬類・器具類等の出費が少なく若干「次年度に使用する予定の研究費」が生じた。平成25年度に請求する研究費と併せて、主に当該実験材料、MALDI-QIT-TOFMSや免疫染色のための試薬類・器具類の購入、ならびにトラフグ催熟実験の際のフグ飼育費用等に充てる。
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