研究概要 |
デカルバモイルサキシトキシン(dcSTX)標準品を、Wong et al. (1971)の方法に従って塩基性条件下で過酸化水素水で加熱処理して得られる酸化分解物(ピリミジドプリン体)と、dcSTX標準品を中性リン酸緩衝液中で没食子酸プロピルを作用させて得られる反応生成物を、Cosmosil 5C18-AR2(2x150mm)と0.085%ヘプタフロロ酪酸/15%アセトニトリル(0.2mL/min)を用いる四重極LC-MS/MSで分析し比較した。dcSTXを過酸化水素で処理した場合、C9H11N6O2およびC9H13N6O3の2種の酸化分解物が生じることが想定される。実際に本研究では、dcSTXの過酸化水素処理により、LC-MS/MS上でRT3.2minおよび3.4minに、それぞれこれら2成分に対応するm/z235およびm/z253の2種の成分が確認された。前者はm/z163, 175, 189, 217、後者はm/z139, 151, 163, 175, 181, 193, 217, 235等のフラグメントイオンを与えた。dcSTXを没食子酸プロピルで処理した反応生成物もLC-MS/MS上でこれらと完全に一致する結果を与えた。これに対して中性リン酸緩衝液中でインキュベートした場合には、dcSTXはほとんど減少せず、このような成分の生成は確認できなかった。以上の結果から、没食子酸プロピルは中性水溶液中でdcSTXに対して強力な酸化剤として作用することを確認した。dcSTXを酸化分解する作用は没食子酸プロピルの他、没食子酸やピロガロール、茶カテキンにも同程度認められた。ケルセチン、ルチン、クロロゲン酸のdcSTX消去能は前3種のポリフェノールに比較して低かった。すなわち、多数のフェノール性水酸基を持つポリフェノールほど、毒を効率よく分解できることが示唆された。
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