赤ワインを中性リン酸緩衝液に対し種々の濃度で希釈した溶液中にdcSTXを添加し5分間煮沸し、残存するdcSTXを蛍光HPLC法で定量した。次に、種々の濃度の没食子酸(GA)を含む中性リン酸緩衝液中でdcSTXを加熱処理し、同様に分析した。別途調製した赤ワイン希釈液およびGA水溶液の酸化還元電位(ORP)を、ラコムテスターORP計(アズワン)を用いて測定した。さらに0.5mMのGAを含む種々のpHの水溶液中に、終末で50μMとなるようにdcSTXを添加して同様に処理し、毒の分解能を検討した。 GAの毒分解能は中性付近で大きく、pH3付近の弱酸性では効果は確認できなかった。最も高濃度(25%)の中性ワイン溶液、およびこれを5倍程度まで希釈した溶液中で加熱した場合には、dcSTXの分解量は20~30μM程度でほぼ横這いであった。ワインをさらに希釈した溶液中では、ワインの濃度低下につれ毒の分解量も減少した。GA溶液中でdcSTXの分解量を調べた場合でも、同様の傾向が認められ、1μMのGAを含む水溶液中では1μMのdcSTXが消失した。ORPは25%ワイン(中性)で130mV、5%ワインで155mV、5mMのGA溶液で119mVであり、ワインおよびGA濃度の低下に伴ってORPは増加し、ポリフェノール(PPs)が含まれない中性リン酸緩衝液では320mVであった。ORPが最も高い中性リン酸緩衝液単体ではdcSTXはほとんど分解されないことを考え合わせると、GAやワインPPsによる毒の分解機構は以下のような2段階で進行するものと考えられる。1)中性水溶液中に溶存する酸素がPPsを酸化する。 2)酸化型PPsが毒を酸化分解する。 2)の反応で酸化型PPsが還元型PPsに戻るので、GAなどのPPsが反応系中の酸素による毒分子の酸化分解を触媒していることが明らかとなった。
|