研究課題/領域番号 |
23580285
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
小瀧 裕一 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (30113278)
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研究分担者 |
小檜山 篤志 北里大学, 海洋生命科学部, 准教授 (60337988)
安元 剛 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (00448200)
寺田 竜太 鹿児島大学, 水産学部, 准教授 (70336329)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 記憶喪失性貝毒 / ドウモイ酸 / イソドウモイ酸 / Nitzschia / navis-varingica / Pseudo-nitzschia / multiseries / 珪藻 |
研究概要 |
底生珪藻Nitzschia navis-varingicaはドウモイ酸(DA)、イソドウモイ酸A(IA)、B(IB)を主成分とする記憶喪失性貝毒を高度に生産する。毒組成はDA-IBがメジャーなタイプであるが、フィリピンの特定地域にはIB、IA-IB、DA-IA-IBの特殊なタイプが存在する。本種は無菌培養するとその組成が変わることがあるが、今回注意深く再調査し同一地点に異なる毒組成タイプが存在することが確認できたことから、毒組成の制御因子としてごく狭い生息環境内の細菌叢の差異やsub-speciesレベルでの遺伝的差異の可能性が示唆された。また、DA-IA-IBの毒組成タイプ株を用いて培養過程における毒の出現順序を調べたところ、本年度の培養条件ではどの毒もほぼ同じ割合で生産され、培養初期には割合の高い成分から検出され始めることが示唆された。細胞外への毒の漏出も同割合で行われた。また、新たに長崎~福岡にかけての九州地域で同種の分布を確認した。 DA生産能が高いPseudo-nitzschia multiseriesに関しては、保存株が死滅してしまったため再分離を試みながら、各種培養実験の準備を行っている。 高度な毒生産能を示す紅藻ハナヤナギに関しては、予備的に生操体の一部を培養し、新たに生長してきた細胞の毒組成が元操体のそれと同じであることを確認した。また、昨年3/11の震災による三陸キャンパス長期停電で凍結中の藻体の毒のほとんどが解凍・分解してしまった。イソドウモイ酸を含む毒のスタンダード作製を目指して同操を新たに採集し記憶喪失性貝毒を抽出、DAおよびIA、IB等の異性体の単離・精製を開始した。 貝類中の異性体を含めた記憶喪失性貝毒の動態検討のため、貝類組織の粗酵素抽出液を用いた毒添加・インキュベート実験方法を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)記憶喪失性貝毒を生産する珪藻2種(P. multiseriesおよびN. navis-varingica)のうちN. navis-varingicaに関しては、培養過程における異性体を含めた毒の生産順位や放出について調べることができた。P. multiseriesについては、継代株が死滅してしまったことから、新たに同種の単藻培養株の確立を試みながら、予定の培養実験の準備を整えた。紅藻ハナヤナギに関しては、予備的ながら培養実験を行い、その毒生産や毒組成を確認できた。2)上記珪藻2種に関しては無菌培養株の作製方法が確立できている。N. navis-varingicaは作製済みである。また、ハナヤナギの無菌培養株作製の準備もできている。3)N. navis-varingicaの毒組成制御因子としての細菌および遺伝の影響を検討するため、無菌培養下でDAが減少IAが増加することを確認したほか、同一条件下で単藻培養した場合の毒組成が安定なことを確認し毒組成の異なる株同士のrDNAの塩基配列比較を開始するなど、予定通りの進行状況である。4)同一毒組成タイプ内の各毒の割合は比較的変動し易いが、それを制御する因子の検討に関しては、無菌培養するとDAが減少IAが増加することが確認され、生息環境中の細菌の影響が他の物理環境の影響よりも強い可能性が得られており、初年度としては十分な進行度合いである。以上に加えて、貝類の粗酵素抽出液を用いた毒添加-保温実験および貝類への珪藻給餌実験の準備・予備検討を終えた。以上を総合した本研究の現在までの達成度は、おおむね順調に進展していると自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
記憶喪失性貝毒生産珪藻2種および紅藻ハナヤナギを用いてその毒生産機構や動態および毒生産の生態学的役割を解明することが最終目的であるが、珪藻2種に関しては、おもに毒生産と細菌の関わりから追及する。P. multiseriesに関しては、無菌培養するとその毒生産能が大きく低下し、それにある種の細菌を添加すると毒生産能が大きく復活することが確認されているが、珪藻と細菌の関わり方については、不明である。本研究では、両者の間に何らかの化合物が関与して毒生産が増大するか否かをまず明らかにすることを目指す。そのために次年度はまず、P. multiseriesの新たな分離を強力に推進する。N. navis-varingicaに関しては、DA、IA、IBを主成分とする毒組成の各タイプを制御する因子としての細菌の働きに加えて、各タイプのrDNAの塩基配列の相違の可能性も検討する。また同一毒組成タイプ内の各毒の割合は比較的変動しやすいが、これを制御する細菌の役割についても検討を加えていく。 紅藻ハナヤナギに関しても毒生産と細菌との関わりを明らかにしていく。その前段階として、安定な培養株を確立したのちその無菌化を試みる。ハナヤナギから本年度抽出後ある程度精製した異性体を含む記憶喪失性貝毒は精製を完結させ、それらをスタンダードとして用いて各種検討を行う。その中には、貝類から抽出した粗酵素による毒の構造変換・分解試験や貝体内での毒の動態を検討するための、毒添加実験も含まれる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者の小瀧(60万円)は、本年度に引き続き珪藻2種の毒生産機構検討のためにほとんどの研究費を消耗品費として使用する。その他特殊な毒組成のN. navis-varingicaが常在するフィリピン・ルソン島への旅費も予定している。 鹿児島大の寺田(20万円)は昨年に引き続き、紅藻ハナヤナギの採集および培養株の作製を継続しさらに長期の培養を試みるとともに、無菌株の確立を目指す。ほとんどの研究費は消耗品費として使用する。 本学の小檜山(50万円)および安元(50万円)の研究費には本年度から繰り越した30万円がそれぞれ含まれるが、それらは、本年度の進展結果を受けて次年度に以下の内容を強力に推進するためである。小檜山は毒組成タイプの異なるN. navis-varingica株間のrDNAの塩基配列の比較を、デンマークのNina Lundholmと連携を保ちながら推進する。またある程度目途が立った段階でベルギーのCastleynと連携しながら、それらの株同士の有性生殖を試みる。消耗品費がメインとなる。安元はハナヤナギの記憶喪失性貝毒(DA、IA、IB、5’-epi DA等)の毒の最終精製および純度確認を強力に推し進める。消耗品費および機器使用料がメインとなる。
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