研究課題/領域番号 |
23580292
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木南 章 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (00186305)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 人的資源管理 / 経営戦略 / 農業法人 |
研究概要 |
農業経営に対する実態調査、アンケート調査を実施し、経営実態およびHRM(人的資源管理)の実態を明らかにするとともに、経営成果の違いに注目した計量分析によって、農業経営におけるHRMのメカニズムと課題を明らかにした。分析結果を踏まえて、農業経営におけるHRMの課題および、農業政策に対する含意を検討した。調査は、農業法人における(1)HRM施策と従業員の離職率の関係、(2)就業希望者の就業に関する意向、(3)正社員の採用と定着の実態と課題、(4)雇用をめぐる事業主と従業員の相互関係、(5)従業員の就業意識の形成プロセス、に大別される。(1)の調査結果に基づいた計量分析を実施し、農業経営におけるHRMに関わる取り組みと成果との関係を理論的に解釈するとともに一般化した。主要な分析結果は以下の通りである。農業法人におけるHRMは、とくに経営者の育成と多様な人材の育成に関して改善が必要である。従業員の待遇改善は、全体の離職率の低下には効果があるものの経営の持続的な発展という点では不十分である。作業の強度などの問題よりも従業員の能力向上の問題が離職率に影響していることから、OJTの改善、従業員の能力開発など、HRMの強化が必要である。HRMの支援政策には、さらなる能力開発につながる有効な研修プログラムの開発や提供およびその導入が求められる。HRMが機能するためにはインセンティブとコミットメントが重要であり、従業員の持続的な能力開発は、経営者や従業員が自らそれに取り組むインセンティブと貢献に報いるコミットメントが必要である。また、従業員の能力やHRMの成果を適切に評価する制度は従業員に対するインセンティブとしても必要となる。その意味で、HRMの理論に基づいてHRMと成果との関係を明らかにする本研究の分析結果は従業員の能力開発の確立に寄与するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震災の影響により、HRM活動の動向分析、および、国内農業HRM活動の調査分析の実施を遅らせざるを得なかったが、アンケート調査の分析を先行実施したため、計画全体では概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
HRM理論と伝統的な農業経営学との関係について考察し、農業特有のHRM理論を構築する。さらに、先進国型のHRMと発展途上国型のHRMの類型区分について検討し、地域の社会経済的特性とHRMとの関係について理論的検討を行う。実態調査分析においては、国内外の日本における農業経営におけるHRM活動の実態と課題を明らかにするための調査分析を行う。調査結果、収集資料の整理・分析を通じて、HRM活動に関して、内容・類型、経営成果に対する効果を、農業経営のプロフィールとともに関連付け、データベースを作成する。HRM活動による農業経営の競争力と持続可能性確保のモデル化調査結果を基に、HRM活動によって農業経営の競争力と持続可能性を高める経営戦略のモデルを作成する。作成したモデルに対して、現地関係者の評価を仰ぎ、農業HRM活動による経営戦略モデルの理論化を行う。調査結果・収集資料の取りまとめ・分析については、これまでの調査結果、収集資料を整理し、農業経営の立地する地域の特性、経営環境、経営組織、経営構造、経営戦略とともに、HRM活動のデータベースを作成する。上記データベースを基に、HRM活動と経営戦略との関係、および両者の関係性を踏まえた農業経営の競争力と持続可能性(収益性、社会性、環境性)の規定要因を計量的に解明する。研究成果については、随時、日本農業経済学会等の関係学会において発表し、学会誌に論文投稿していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
農業経営のHRM理論の構築、調査結果・収集資料の取りまとめ、および研究成果の発表については当初計画通り実施する。ただし、国内調査分析は、震災等の影響で平成23年度の実施が当初計画に対して不十分となったため、未実施分を平成24年度に実施する(HRM活動の動向分析、国内農業HRM活動の調査分析)。また、国内調査分析を増やした分、海外調査分析の実施量を削減する。実態調査は、関係機関、研究機関、農業経営、農家組織、農企業を対象として、HRM活動の実態と課題を明らかにするための調査分析を行うとともに、HRM施策とその効果に関して、農業経営者、雇用就農者を対象にしたアンケート調査分析を行う。調査結果、収集資料の整理・分析を通じて、HRM活動に関して、内容・類型、経営成果に対する効果を、農業経営のプロフィールとともに関連付け、データベースを作成する。研究成果の発表を日本農業経済学会等の関係学会において発表し、学会誌に論文投稿する。
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