農業経営におけるHRM(人的資源管理)の実態、メカニズム、課題について、実態調査、およびアンケート調査に基づいて明らかにした。①HRMと従業員の定着に関して、HRM施策と従業員離職率の関係を定量的に分析し、以下のことを明らかにした。農業法人におけるHRMは、経営者および多様な人材の育成に関して改善が必要である。従業員の待遇改善は、全体の離職率を低下させるが、従業員の能力向上の問題が離職率に影響していることから、OJTの改善、従業員の能力開発などが必要である。従業員の持続的な能力開発には、経営者や従業員が自ら取り組むインセンティブと貢献に報いるコミットメントや従業員の能力やHRMの成果を適切に評価する制度が必要となる。②従業員の就業意識の形成プロセスに関して、従業員の属性や態度の変数を含めた共分散構造分析によって、以下のことを明らかにした。従業員の就業意識に直接影響する要因のうち最大のものは職務満足度であり、組織コミットメント、キャリアコミットメントが職務満足度を高める関係にある。労働時間は、職務満足度、待遇満足度、組織コミットメントを通じて就業意識の低下をもたらす。給与額、賞与等は、就業意識に対する直接効果はないが、組織コミットメントに作用する。③農業インターンシップの事業効果(参加者満足度、雇用実現)を規定する要因を定量的に分析し、以下のことを明らかにした。農業インターンシップの事業特性は事業効果に影響を与えるため、体験者と経営者の意識や特質の把握、および両者のマッチングや体験プログラムの適切な設定によって事業効果を高める余地がある。体験者と経営者とでは、農業インターンシップに期待するものが異なり、それぞれの満足度を規定する要因が異なる。雇用実現を規定する要因も、体験者満足度や経営者満足度を規定する要因とは異なることから、満足度と雇用実現の両立は容易ではない。
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