研究課題/領域番号 |
23580294
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
千年 篤 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10307233)
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研究分担者 |
野見山 敏雄 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20242240)
横山 岳 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20210635)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 日本のシルク産業 / 産業の進化プロセス / 蚕糸絹業 / 時系列分析 |
研究概要 |
本年度は、1)日本のシルク産業の特質と変容要因を明らかにする実証分析の基盤となる長期データベースの構築とそれを用いての試行的分析、2)実証・理論分析の方向性と設計に際して必要となる関連文献のレビュー、3)日本のシルク産業の歴史性と実態を把握するための個別事例調査、という3側面において研究を進めた。具体的な研究実績は以下のとおりである。1)長期データベースの構築にあたっては、統計・文献資料を基に広くデータを収集・整理・入力を行った。また、現時点で構築した時系列データベースを用いて、戦後のシルク産業の1特性を明らかにするために、試行的な実証分析を行った。養蚕業・製糸業・絹業では生産量等において同じ動きをしていなかったことが明らかになった。2)近代製糸技術、絹織物市場構造および時系列分析手法に関する文献レビューを踏まえ、実証分析の具体的な仮説を立てるとともに、上記の実証結果(暫定)の解釈を試みた。3)個別事例調査は八王子、群馬、京都、福岡における養蚕業または絹業を対象に行った。事例調査は当初の予定より限られたものとなったが、そのなかで横山(研究分担者)と小野(研究協力者)が従来から取り組んできた八王子と小松の2箇所の絹織物産地の歴史的過程と現状に関して、追加調査からの知見を加え論文として公表したことは特筆される。八王子については絹織物産地として性格とその背景にある契機、小松については戦後の織物産地としての性格と生産構造、とりわけ機業の生産対応を明らかにするとともに、両地域における産地継続のための今後の課題を提示した。消費者ニーズに対応した製品の開発が絹織物産地の継続には重要となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベースの構築が遅れていること、十分な個別調査が実施できなかったこと等の問題点はあるが、一方で、試行的な実証分析により興味深い結果を得られたこと、2箇所の個別事例調査に関する論文を公表できたこと等を鑑みれば、概ね順調に研究を遂行できたといえる。 長期データベースの構築にあたっては、予想よりも統計資料上の欠損値(特に戦間期)が多かったため、当初の計画どおりには進まなかった。しかし、データ・資料の収集をする上で想定していなかった興味深いデータも入手することができた。こうしたなか、現時点で構築したデータベースを用いて試行的ながらも実証分析を行い、今後の分析の方向性を明らかにできたのは意義あることであった。特に、蚕糸絹業市場の生産量変数の動きが異なっていることは興味深い結果である。関連文献を参考にして、その解釈を試みたが、現時点では十分な解釈は得られていない。今後の研究課題である。 また、個別事例調査に関しては、研究者と聴き取り先の都合があわず、当初の予定より限られたものとなったが、追加調査を実施することで学術論文としてまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、本研究の基盤であるデータベースの構築(主に千年と加賀美が担当)と個別事例調査(主に野見山、横山、千年が担当)を行う。前者の部分では、具体的には、前年度に構築した長期データベースの追加・修正を行う。データベースの構築については、戦間期においては欠損値が多い点を鑑み、戦後のデータベースの構築を優先する。ただし引き続き、戦前・戦間期のデータ・資料も可能な限り収集・整理することに努める。個別事例調査においては、特に蚕種業・製糸業に注目して、愛媛、長野等を対象にして調査を実施する。 本研究の中核をなす実証分析と理論分析は次のとおりに行う。実証分析においては、データベースの逐次的更新・修正に合わせ、暫定的な推定を行う(千年と加賀美が担当)。この際に、戦後のデータベースを主に利用するが、戦前期を含めたデータベースも可能な限り利用する。具体的な分析アプローチについては、第1に、前年度に導かれた戦後のシルク産業の市場構造に関する暫定結果を踏まえ、分析の精緻化と分析結果の解釈の収斂化を図る。第2に、単位根や共和分の検定結果を基に設定されるVAR/VECモデルを採用した分析も試みる。後者の実証モデル化においては個別事例調査および関連文献のレビューから得た知見を適宜、有機的に活用しながら、推定モデルおよび対象変数を再選定するという手順を繰り返す(千年、野見山、横山、淵野、小野、加賀美が担当)。 理論分析においては、実証分析結果を踏まえ、シルク産業の進化サイクルの理論モデル化を検討する(主に千年が担当)。個別事例調査および産業発展史や産業組織論分野等の関連文献レビューから得た知見を参考にしつつ、経路依存性、競争と淘汰、協力と共存という概念を基礎とする経済進化論的アプローチを適用した暫定的仮説モデルの全体的枠組みを設定する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、次の方針により研究費を使用する。本年度、長期データベースの構築および関連文献レビューは当初、想定した作業量より膨大になることがわかったので、次年度はこれら作業を円滑に遂行するため、研究協力者(加賀美)により積極的に本研究に参画してもらうこととする。このため、当初計画に比較して人件費・謝金を多く見積もる。この措置に伴い、今年度の実績を踏まえ個別事例調査に要する旅費を削減することとする。
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