研究課題/領域番号 |
23580294
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
千年 篤 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (10307233)
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研究分担者 |
野見山 敏雄 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20242240)
横山 岳 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (20210635)
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キーワード | 日本のシルク産業 / 産業の進化プロセス / 蚕糸絹業 / 高級化 / 絹織物業者の経営対応 / 時系列分析 |
研究概要 |
昨年度に引き続き、本研究の基盤であるデータベースの構築(主に千年と加賀美が担当)と個別事例調査(野見山、横山、小野、千年が担当)を行った。前者では、前年度に構築した長期データベースを追加・修正した(戦後のデータの収集・整理が中心)。後者の個別事例調査では、絹織物/繊維業に注目して、西陣、米沢、群馬(東吾妻)等を対象にして調査/視察を実施した。 実証分析では、①構築したデータベース(作成途上)を用いた戦後の絹業高級品化の実態解明分析と、②西陣・米沢の絹織物業を対象に調査した事例分析を中心に行った。 ①については、戦後のシルク産業の市場構造の暫定的分析過程で1960年代以降の絹織物価格の動きが特異的であることが見出され、その背景に和装需要における大衆品から高級品への転換(高級品化)の影響があるのではと着想し、高級品化の実態解明分析を行った。絹織物業の品目・品種割合の変化、価格の変化、品質の変化という3つの観点から、1960年以降の絹業における高級品化の実態を分析した結果、絹織物の高級品化過程で高級品と評される製品の生産比重が増加したことは確かだが、必ずしも高価格化、高品質化が伴っていたわけではなかったことが明らかになった。 ②については、絹織物需要の停滞の中で現在も産地としての地位を維持している西陣と米沢の生産主体のこれまでの対応と意向等を明らかにし、その結果を踏まえ今後の和装部門活性化に資する方策の提示を行なった。消費者ニーズに対応したきめ細かな製品(多品目少量/地産地消型)の開発・促進が絹織物産地の継続には重要となるという点は前年度、八王子の事例から導かれた結果と同様である。 理論分析では、前年度に引き続き、産業発展史や産業組織論分野等の文献調査を通じて進化経済論的アプローチを整理し、それを踏まえ、シルク産業の進化サイクルの理論モデル化の概括的枠組み(暫定)を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の基盤である長期データベース(作成途上)と個別事例調査のもと、現時点で考察可能な実証分析に取り組んだ結果、シルク産業の全体像を定量的に明らかにするまでには至っていないものの、部分的な点で新たな知見を提示することができた。 しかし、長期データベースの構築は当初の予定よりも遅れている。利用可能統計の制約もあり、戦前のデータが未だ十分、整理されていない。戦後のデータはかなり整理されたものの、シルク産業を取り巻くマクロ変数の収集・整理が必要である。 他方、個別事例調査については、米沢、西陣、群馬(東吾妻)、茨城(結城)、福島(二本松)で実施することができ、絹織物/繊維産地の現状と今後の展望に関する知見・情報を蓄積できた。 理論分析においては、進化経済学分野の関連文献を通してシルク産業の進化サイクルの理論モデル化の概括的枠組み(暫定)を構築したが、未だ十分ではなく、精緻化が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き、本研究の基盤である長期データベースの構築(主に千年と加賀美が担当)と個別事例調査(主に野見山、横山、小野、千年が担当)を行う。前者の部分では、具体的には、前年度まで構築した長期データベースの追加・修正を行う。現時点で、欠損値の多い戦前・戦間期のデータも可能な限り収集・整理する。個別事例調査においては、蚕種業・製糸業に注目して、愛媛、長野等を対象にして調査を実施する。 本研究の中核をなす実証分析と理論分析は次のとおりに行う。実証分析では、データベースの逐次的更新・修正に合わせ、推定を行う(千年と加賀美が担当)。過去2ヵ年での収集状況を鑑みると、VAR/VECモデルの推定等による実証分析は戦後のデータベースが主体にならざるをえないと予想されるが、可能な限り、戦前期を含めたデータベースを用いた分析も試みる。モデルの推定にあたっては、個別事例調査や関連文献レビューから得た知見を効果的に活用しながら、対象変数を選定する(千年、野見山、横山、小野、加賀美が担当)。 理論分析においては、実証分析結果を踏まえ、シルク産業の進化サイクルの理論モデル化を行う(主に千年が担当)。具体的には、昨年度、暫定的に構築したシルク産業の進化サイクルの理論モデル化の概括的枠組みの精緻化を行い、その枠組みの中で日本のシルク産業の進化プロセス(盛衰過程)の仮説的動態モデルを提示する。 以上の実証分析、理論分析を踏まえ措定されたフレームワークをもとに、個別事例調査から得られた知見・情報を有機的に活用し、日本のシルク産業の進化プロセスの転換の方向性と新たな構造形態を考察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、次の方針により研究費を使用する。長期データベースの構築の作業を円滑に遂行するため、前年度同様、研究協力者(加賀美)に積極的に本研究に参画してもらうこととする。このため、当初計画額に比較して人件費・謝金を多く見積もる。また前年度実績から、個別調査において資料/文献の入手/購入に要する必要が明らかになったため、物品費を当初計画額に比較して多く見積もる。こうした措置に伴い個別事例調査に要する旅費およびその他経費を削減する。
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