地中海における農業生産に関する研究においては、特に、北アフリカの諸国として、モロッコとチュニジアを選択し、調査を実施した。最終年度においては、モロッコにおける調査を実施した。この地域においては農業生産の研究と食料貿易の研究がリンクされてこなかったのに対し、本研究では両者の関係を明らかにすることができた。 しかし、当初想定していた「環地中海連合」域内の食料貿易に関しては、2010年以降は、むしろ貿易構造が変わってきていることが明らかになった。モロッコでは、フランス元大統領サルコジの提言する「環地中海連合」の概念に依存せずに、むしろFTA協定をアメリカをはじめとする諸国と締結しており、サルコジ的外交路線には反する方向で、自由貿易協定をすすめていることがわかった。 一方で、チュニジアと比較すると、輸出品目であるオリーブの輸出額は少なく、小麦の輸入額を補える金額にはなっていない。このため、食料貿易における赤字が増加する傾向にあることが明らかになった。さらに、小麦生産の増加を試みる農業政策も継続しているとみることができる。地中海農業における北アフリカ側の諸国では、小麦生産が天候の影響、特に降水量の影響を受けて、生産量の変化が特に大きくなるという特色を持っている。この点が改善できない限り、小麦生産に安定性は取り戻せない。輸入小麦を購入するためには、環地中海連合に関係がない諸国とのFTAが有効であるが、それでも、農産物輸出の点からみれば、輸出額を支えるトマトやマンダリン・みかんの生産額は少ないと判断される。また、モロッコにおける水産物に関する生産と貿易の分析を試みた。ここでは、EU諸国の側のモロッコでの漁業援助の価格の変動が見られた。
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