研究課題
これまでのインドネシアの所得格差に関する分析は、インドネシア中央統計庁が実施する社会経済調査データを使用し、家計消費の側面から行われてきた。このデータを元に分析された所得格差を表すジニ係数は、年々大きくなり、まだ縮小する兆しを示していない。消費を決める代表的な要因としては恒常所得や平均生涯所得がある。そのため人々が合理的であれば、短期的に所得変動があっても消費水準はそれにあまり影響されない。したがって、社会経済調査の家計消費データは、Hondai(2014)が示したインドネシアにおいてここ約5年間に起こっているような農業賃金率の変化による所得変化を反映していない可能性がある。そこで、最近の賃金率変化が及ぼす所得格差への影響を見るために、生産の側面における労働分配率に注目した所得分配の変化を分析し、家計消費データを使用した従来の所得格差にどのような変化を及ぼすかを検討する。このために、水稲生産と従業者20人以上規模製造業事業所の労働分配率の変化について分析すると、その結果、次のことが分かった。労働分配率は、前者においては1979年そして後者においては1975年のデータ入手が可能になって以来、傾向的に低下してきた。しかし、2007年から2008年を境に、両者において労働分配率の上昇が始まった。最近数年間の農業賃金率や製造業賃金率の変化、農業における過剰就業の状況などから考察すると、今後もこれらの分野の労働分配率の上昇は続くと考えられる。この労働分配率の上昇が、社会経済調査データを使用し計測された所得格差に及ぼす影響を考察すると、水稲生産および従業者20人以上規模製造業事業所のいずれの分野においても、所得格差を縮小する様に作用する。したがって、労働分配率の上昇が今後も持続すれば、所得格差は縮小に向かうと考えられる。
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Singapore economic Review
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