研究課題/領域番号 |
23580317
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
大江 徹男 明治大学, 農学部, 教授 (60409498)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際穀物市場 / バイオエタノール / アグリビジネス / 再生可能燃料基準 / エネルギー自立法 |
研究概要 |
平成23年度の課題は、国際先物市場における穀物価格高騰を受けて、アメリカの農業生産・農業経営にバイオエタノールが及ぼした影響を検討することであった。そのさい、 アメリカの穀物生産・飼料供給能力と農業経営、アメリカにおけるバイオエタノール生産の動向とバイオエタノール普及支援策に関する研究を並行して進めることとした。 これまでの現地調査による実証分析をベースに、バイオエタノールの生産拡大を推進するインセンティブである再生可能燃料基準(RFS)について分析を実施することを目的とした。これはバイオエタノール支援策の核心部分であるだけに、その詳細な内容の分析とそこから析出される結論は、バイオエタノールの今後の普及に大きな影響を与えることは不可避である。 ただし、この点について、重大な政策変更が加えられた。これまでバイオエタノールの流通業者に与えられていた税額控除制度が廃止されたのである。バイオエタノール推進派は、この政策変更によって有力なバイエタノール推進手段を失うことになった。また、再生可能燃料基準が変更された点も重要な修正点である。第2世代バイエタノールの開発と製品化が予想以上に手間取っており、アメリカ政府のスケジュール通りに非穀物系バイエタノールへの転換が進んでいるわけではない。以上のような状況変化を考慮し、かつアメリカ農業の現段階を十分に意識しながら、これまで収集したデータや資料を整理し、バイオエタノールがアメリカ農業に与えている影響について多面的に分析を実施した。 バイオエタノールの中では、第2世代エタノール開発について注目する。二酸化炭素削減という観点から考えると、環境負荷の少ない第2世代バイオエタノールの開発状況はバイオエタノールの今後の普及に絶大な影響を及ぼすと予想される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アメリカの調査では、改正再生可能燃料基準(RFS2)の最終規則案が公表されたのを受けて、アメリカ農務省(USDA)が提出しているRFS2及び最終規則の内容について分析、検討した。今後のアメリカにおけるバイオエタノールの生産拡大とその農業への影響をみる際に、連邦政府の政策動向を注視することは必要不可欠である。 RFS2及び最終規則の分析において重要な論点が、第2世代バイオエタノールである。バイオエタノールが今後農業に与える影響を推定する際に重要となるのが第2世代バイオエタノールの開発動向である。いわゆるセルロース系バイオエタノールの現在の開発状況、特に商業化の可能性とそれを受けた最終規則での取り扱いが注目されていた。RFS2ではセルロース系バイオエタノールの達成義務量を一定程度縮減するという措置を取ったことが注目される。このような措置は明らかにセルロース系バイオエタノールの開発、商業化が想定よりも大幅に遅れていることを示している。調査から、RFS2の策定が原油価格が高騰していた状況下で実施されたために、無謀ともいえる義務量の設定がなされたこと、そのため今回の最終規則では実際にEPAの職員が現在の開発状況を現場レベルで確認したうえで縮減したこと、等が判明した。 もう一つの論点が優遇税制(ブレンダーに対して、1ガロン当たり45セントの税額控除措置)をめぐる議論である。アメリカ議会は、2010年12月17日に優遇税制の1年間の延長を認めたが、共和党が勝利した中間選挙後の2011年1月以降、優遇税制に対して反対する勢力の攻勢が強まった。たとえば、上院で2011年6月16日に優遇税制を即時廃止する修正案が可決された。このように政策をめぐる議論は予断を許さない緊迫しており、今後さらに分析、検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカにおけるバイオエタノール業者の事業展開や支援策の動向について把握することを目的とする。そのために、特にアメリカのバイオエタノール業者が、原油価格の高騰下においてどのような事業戦略を有しているのか、アメリカと他の生産国、及び最終消費国の関係をどのように描いているのか、等について注目し、文献調査や各種データの収集を実施する。 政策面に関しては、引き続きRFS2の最終規則の内容について精査する。現段階においても、政府の支援なしではバイオエタノールの普及、生産拡大は不可能であるだけに、政策分析、とりわけRFSについての分析は必要不可欠である。また、政策支援面の分析をすることによって、RFSの実行可能性と現状に関する政府の見解を確認し、現在の開発や生産の現況を把握することが可能となる。 セルロース系バイオエタノールを含むいわゆる先進的バイオエタノールの扱いに不透明な部分があるだけに、第2世代バイオエタノール開発状況や商業化の進展について調査を実施する。具体的には、現在パイロットプラントを運営管理しているエタノールメーカーに関する資料を収集するとともに、可能であれば聞き取り調査を実施する。政策面におけるもう一つの論点が優遇税制の問題である。中間選挙で共和党が勝利し、優遇税制をめぐる議会の見方が以前よりも厳しいものになった。その結果、上院で2011年6月16日に優遇税制を即時廃止する修正案が可決された。優遇税制をめぐる動きは今後本格化するとみられるだけに、引き続き議会の動向について注視する。
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次年度の研究費の使用計画 |
アメリカでの聞き取り調査、資料収集等の現地調査を行う計画である。取り上げる地域はこれまでも調査を実施してきたアメリカの中西部を予定している。すでに一定の調査体制が構築されつつあるので、これまでの成果を踏まえつつ、さらに調査を継続する。特にミネソタ州においては、同州の農業局の斡旋で現地調査を数度実施しており、調査の手厚い支援を受けている。そのため、現地調査を実施する場合でも、国内調査と同様な体制で実施することが可能である。また、政策分析を実施するワシントンD.C.や燃費規制を課し、今後のエコカーの開発、生産に大きな影響を与えることが予想されるカリフォルニア州も調査候補地である。 調査内容については、これまでの調査・研究によってアメリカのバイオエタノール生産は、2000年以降急速に拡大していることが明らかである。また、その促進要因についても競合する化学物質の有毒性の発覚など、一定程度の分析結果が出ている。したがって、本研究では、さらなる実証分析をすすめることで、生産動向に大きな影響を与える政策動向に重点を置く。
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