最終年度にあたり、3年間の研究の取りまとめを行った。最近出版された問題作の著書の書評を行った。また北海道と東北の農家を調査した。 江戸農書が誕生し展開してきた時期の農法では、まわし(循環)・ならし(平準)の原理による日本農法が形成されていた。さらには、「土地相応」「時節相応」など、「相応」と江戸農書で表現される「合わせ」の原理が働いていることを私は明らかにした。これを動態的風土均衡論と名付けた。ただし、これは農業を永続的に行うために結果としてこうなってきたのであり、農家自身が目的意識的に追求していたわけではない。 農業生産の本質とは、生きる・育てる⇔殺す・食べる、自然との親和⇔自然からの離反、共生・存続⇔排除・破壊の絶対矛盾の中で永続的に生産活動を続けることにある。日本列島の風土・歴史・文化のもとでは、合わせ(和合)・まわし(循環)・ならし(平等)の三原理である動態的風土均衡論によって、絶対矛盾を止揚し永続性を保証してきたのである。 1960年代からの高度経済成長は、それまでの循環原理を歪め、合わさず(対立)・まわさず(効率)・ならさず(競争)の農法へと変質させていった。20世紀末から環境問題や資源の有限性が言われる中で、自然農法や有機農業の試行錯誤の中から、新しい芽が育ちつつある。新しい創造の芽はいつも現場の農家の試行錯誤の中から生まれてくる。これから合わせ(和合)・まわし(循環)・ならし(平準)の動態的風土均衡論による日本農法の原理を意識的に追求する「天然農法」の確立へと進んでいくのではないだろうか。
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