研究課題/領域番号 |
23580325
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
奥山 武彦 山形大学, 農学部, 教授 (20343767)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 農地地すべり |
研究概要 |
平成21年に大規模な活動を起こした鶴岡市七五三掛地すべり地の滑落崖付近の休耕農地を試験地に選定した。精密地形測量を実施して,段差約1mの現滑落崖の上方に段差2.4mの旧滑落崖地形を確認した。試験地でスウェーデンサウンディングを実施したところ,軟弱な表土層は0.25m程度で,深度1~4mで貫入不能になった。試験地周辺の80×90mの範囲で自然電位探査を実施した結果,集水井の周囲が低電位であったのに対し,斜面方向に連続する高電位帯が認められた。高電位帯で2本のボーリングを行い,オールコアの試料採取と深度12mに間隙水圧計の埋設,4,6,8mの3深度に開口部を設けた保孔管の設置を行った。採取試料の深度別特徴は,含水比と強熱減量,乾燥密度と透水係数は同傾向であり,地表に近いほど試料懸濁液の硫酸濃度が高くてpHが低かった。地中に向かって風化が進行していると考えられる。地すべりブロック後背地の観測孔における連続観測から,融雪期にはECの微変動と増大が20mに及ぶ孔内水位の急上昇に先だって発生し,その後水温上昇とECの低下が見られた。これは豪雨時の一時的な地下水位上昇と異なり,今冬の大雪の融雪の連続的進行と浸透水の押し出しを反映する現象と考えられ,地すべりブロックへの地下水供給のもとになっている。既存観測孔を利用するための大深度観測用ゾンデでは,測定区間の遮断をより確実にし,観測孔に挿入しやすくするために,全長3mの可撓性パッカーを試作した。また,圧力センサーは90mの長尺ケーブルによる誤差を低減するために,信号増幅器内蔵型として高レベルの伝送をさせるとともに,信号コードを電源と分離する形式を採用した。また,深部すべりによるガイドパイプ破断部からすべり面付近の地下水を採取するゾンデを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鶴岡市七五三掛地すべりは平成21年融雪期に大規模な活動が発生したが,重点的な地下水排除工の実施により沈静化した。活動前の観測データが十分でないために地下水排除工の効果の定量的評価は難しい面があるが,冬~春の融雪による多量の地下水供給が主因であることは間違いない。本研究では地すべりブロックへの地下水供給源となる後背地を対象として探査,ボアホールによる調査による地下水供給実態の解明,大深度地すべりの抑制工としての地下水排除工計画の基礎的技術であるすべり面付近の地下水頭観測,地下水採取方法の開発を目的としている。同地区における21年以来の継続的な観測と関係機関との連携によって現地の状況はほぼ把握して諸データを収集するとともに,研究目的に合った試験地を設定することができた。試験地において自然電位探査を行い,ブロック後背地からの地下水流下状況が推定できた。24年度に予定していたサウンディング試験を実施するとともに,崩積土層下端までのボーリングで採取した不撹乱試料の土質試験によって深度別特性と風化進行状況を把握した。崩積土層下層と崩積土層内の間隙水圧の観測を開始した。大深度ボアホール観測用ゾンデを製作し,ボアホールの孔内観察によってすべり面深度の確認とゾンデの適用性を確認したが,23年は降雪が早く,ゾンデの適用試験が遅れたので,24年融雪期に観測,採水を行い,地下水排除工排水の水質との比較を行って流動状況の解明を進める。
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今後の研究の推進方策 |
24年度は大雪の影響で大規模な融雪が生じるので,23年度に続いて試験地における観測を行うとともに,梅雨期等の降雨時の観測を行う。農地における保全機能を評価するデータを取得するために,耕作の有無による涵養量変化の調査を行うとともに,浸透現象を明らかにするための地下水収支解析を行う。大深度地すべりブロックではボアホールの破断が発生している個所が増えているので,大深度用観測・採水ゾンデを使用してすべり面付近の地下水の水頭,水質の測定を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
23年度は現地調査を鶴岡市七五三掛地区に絞って実施したために旅費の使用が少なく,次年度使用額が生じた。24年度は七五三掛地区に設定した試験地における観測を継続するとともに,同地区で開発した手法を多雪大規模地すべり地である滝の沢地区に適用する調査を行う。
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