平成21年融雪期に大規模な活動を起こした鶴岡市七五三掛け地すべりB1ブロック頭部を試験地に設定して,ボーリングによる試料採取と間隙水圧測定,浸透能試験等による地すべりブロック内外の地下水挙動の観測と積雪状況の観測を実施した。隣接するDブロックでの大深度すべり対策の地下水排除工における水質分析による地下水の変化を追跡調査した。平成23年度はボーリングを行ってコア試料の深度別物理性試験による水理特性と風化進行の調査を行った。地すべり後背地では,融雪期の水位上昇に先行してECが増大し,山体内地下水の押し出し流動の発生が考えられた。平成24年度はブロック内休耕棚田や林地は浸入能が大きいが,浸透防止工の施工により浸入能は80分の1まで低減し,涵養抑制効果が大きいことを確認した。ディープウェル等の排除地下水は,重炭酸カルシウム型の水質が卓越するが,春期の濃度低下と,ブロック側端の方向と調和性がある水質分布から,高透水性の強風化玄武岩層や連続性亀裂等の条件下で融雪浸透による深層地すべりへの関与が示された。孔内深度別観測ゾンデにより深度30mまでの水頭と水質の季節変化が観測できたが,平成25年度は大深度ボーリング用に改良したゾンデで66mまでの水頭測定を実施し,7月と1月との比較を行った。1月は強風化玄武岩層で水頭が増加しており,春期だけでなく初冬期の融雪による地すべり誘因が裏付けられるとともに,集水井によって深部での水圧を低下させる効果が確かめられた。融雪期には浅層の高水頭状態が続き,2次すべり発生ポテンシャルが高まる。ブロック上中部の積雪調査により,積雪深1mあたりの等価水量は480~500mmであることが確認できた。多雪地における初冬・融雪期の地すべり発生と効果的な対策に関わる基礎的な知見を得られた。
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