研究課題/領域番号 |
23580328
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
渡辺 晋生 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (10335151)
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研究分担者 |
武藤 由子 岩手大学, 農学部, 講師 (30422512)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 土壌圏現象 / 自然現象観測・予測 / 水分・窒素循環 / 寒冷地 / モデル化 |
研究概要 |
本課題では、凍結融解に晒される不飽和土中の水分移動・窒素循環と様々な環境変化に対するその応答を明らかにすべく系統的な実験と現場観測、数値モデルの検討を目的としている。23年度は、まず、異なる初期水分・硝酸濃度に調整した北海道十勝の圃場土を用い、凍結・融解浸潤に関するカラム室内実験を行った。実験には本年度購入した熱特性計で校正したサーモTDRも活用し、熱解析や数値解析の精度を向上した。そして、浸潤形態や浸潤速度の変化と凍結前の土中水分量の関係、浸潤水の溶液濃度によって浸潤前線の形態が異なるものの浸潤速度にはほとんど影響を及ぼさないことを明らかにした。これらの成果は、凍結層を持つ土中へ春先に水や秋まき肥料がどのように地表から浸潤するかを考え、温暖化にともなう気温や積雪量の変化へ対応した農地の水・施肥管理を図る上で意義深い。次に、鏡面冷却式湿度計を土の凍結実験に応用し、水分移動を考える上で重要な凍土内の不凍水圧の実測に世界で始めて成功した。さらに、実験結果に基づき、凍結過程にある土の非平衡な不凍水量曲線を評価し、数値モデルを改良するとともに、融解浸潤過程の圧力と不飽和透水係数の評価の問題点を指摘した。また、こうした成果の一部を積雪中の水分移動の解析に応用可能であることを示した。窒素循環については、水の流れのある土中の酸化還元電位の経時変化が、蒸発・流速・溶液濃度・基質の変化によって受ける影響をカラム実験から明らかにした。また、同様に浸潤過程において土中や排水中の微生物の量や活性の変化をルミテスターを用いて実測し、数値解析を試みた。こうした成果は、今後凍結・融解過程にある土中からの温室効果ガスの発生予測や水分移動とリンクした窒素・炭素循環を考える上で有用であろう。以上の成果を関連学会で発表した。また、現在関連各誌に論文を投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
室内実験については、水分飽和度、凍結速度、溶質濃度を変えた不飽和土の凍結融解浸潤実験を予定通り行え、解析も進んでいる。融解浸潤過程の氷量と浸潤速度の変化や、凍土内の不凍水圧の実測など、新たに明らかになった知見も多く、順調といえる。数値モデルについても、実験に基づく改良が進んでおり、凍結過程については計画に即した成果が得られていると思われる。また、融解浸潤過程については、次年度以降に取り組むべく課題と問題点の整理ができた。 酸化還元電位や微生物活性、窒素動態に関しては、未凍結土を対象とした基礎実験が概ね終了し、いくつかの知見を得た。しかしながら、こうした実験結果から議論を進めたところ、今後凍結過程へ実験を拡張する前に、現在までに得られた成果と溶存酸素との関係、浸潤にともなう微生物移動の実験と数値モデルのリンク、さらには窒素動態の数値計算モデルの改良を行う必要があることも明らかになった。 現場観測については、やや遅れがある。岩手大での圃場観測は、いくつかのレベルで平行して行えており、室内実験との比較が可能となりつつある。一方、凍結深分布の観測については、関係者との協議や関連学会での提案を行っているが、いくつか問題点が浮上しており、観測網の設置に至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
凍結過程の水分・物質移動については、室内実験・数値計算ともに、異なる土性や境界条件の検討をこのまま進め、成果を論文に公開する。また、融解浸潤過程については、新たに課題として浮き上がった0℃近傍の土中の溶質移動の測定精度を高めるため、水分・溶質センサ、圧力センサの作成とその検量モデルを構築する。このため、精度のよい恒温水槽が必要である。そして、これらを活用した室内カラム実験と現場観測の結果に基づき、非平衡融解過程の不飽和透水係数モデルと窒素動態モデルを提案し、数値モデルにつなげる。この際、粒子表面の不凍水量や接触角、撥水性等に関してWashington大のDr. Fluryと討議し、凍土中の氷量の増減と不飽和透水係数の変化をより現実的あらわせるモデルの構築を目指す。凍結面下の酸化還元過程と窒素動態の変化については、特に還元開始時の溶存酸素の減少と微生物活性の応答をカラム実験により検証する。このため、微少計測が可能なUnisense社の溶存酸素・酸化還元電位センサの導入を検討する。また土中の化学変化-物質移動連結数値モデルHP1により、酸化還元電位や溶存酸素の変化と窒素動態の変化を解析する。野外観測については、雪氷学会凍土分科会に検討の場を設け、測定法とデータベースの整備と実地観測の準備を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は当初の計画通り凍結・融解浸潤過程にある土中の不飽和透水係数や酸化還元電位の変化、窒素動態と分布を明らかにすべく室内カラム実験を進めるこれらの実験に必要な物品(Unisense社の各センサ、恒温槽、その他消耗品)の購入費用として85万円を予定している。旅費20万円については研究分担者との土中の不凍水量と透水係数のモデルに関する研究打合せや、学会発表のために用いる。人件費・謝金としては、低水分・低温領域の水分特性曲線の測定実験補助に対する謝金として5万円を予定している。また、今年度投稿予定の論文の校閲、投稿料として10万円を予定している。
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