研究課題/領域番号 |
23580328
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
渡辺 晋生 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (10335151)
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研究分担者 |
武藤 由子 岩手大学, 農学部, 講師 (30422512)
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キーワード | 土壌圏現象 / 自然現象観測・予測 / 水分・窒素循環 / 寒冷地 / モデル化 / 凍土 |
研究概要 |
本課題では、凍結融解に晒される不飽和土中の水分・窒素循環と様々な環境変化に対する応答を明らかにすべく系統的な実験と現場観測、数値モデルの検討を目的としている。 昨年度の実験では、凍土中に含まれる溶質がTDRセンサーによる凍土の不凍水分測定に影響を及ぼすこと、TDRセンサーによる溶質濃度の測定法が凍土については確立されていないことが問題となった。そこでH24年度は、異なる濃度と水分量に調整した様々な土性の凍土のTDR測定を行い、溶質を含む凍土の不凍水量測定の補正モデルと凍土の溶質濃度測定法を提案した。そして、これらのモデルを用いて昨年度の実験の解析を進める一方、土中の溶質濃度が凍結の進行にともないどの程度不凍水中に濃縮されるかを示した。また、凍結・融解過程の水分移動の駆動力である不凍水圧を自動水分吸脱着装置や、誘電率式、熱拡散式、鏡面冷却露点式センサーの併用により測定した。そして低温領域の不凍水量曲線(水分保持曲線)のヒステリシスや粘土の層間イオンの違いが不凍水量曲線に与える影響を明らかにした。さらに、これらの測器の凍土以外(土の乾燥過程や燃料電池の凍結課程)の測定への応用を試みた。 窒素循環については、水の流れのある土中の酸化還元電位の経時変化が、流速・溶液濃度・基質の変化によって受ける影響をカラム実験から明らかにした。この際、地表面近傍の酸化還元の分化と分布を10マイクロメートルスケールで測定することに世界で初めて成功した。そして、酸素の供給速度と微生物活性の変化の関係をモデル化し、表面酸化層の形成プロセスを考察した。同様に浸潤過程にある土中の微生物分布をルミテスターを用いて実測し、数値解析を試みた。 以上の成果を関連学会で発表、関連各誌に論文として公開した。凍結深さ分布については、データベース作成委員会を立ち上げ組織的なデータ収集を始めるとともに公開準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
室内実験の問題点であった水分・溶質センサーの改良に成功し様々な条件の凍結融解浸潤実験の解析が予定通り進んだ。また、不凍水圧測定からは、ヒステリシスなど新たな知見を得ることもできた。一方で、センサーや測器の検定や開発に時間を要し、H24年度は予定していたカラム実験を行うことができなかった。実験結果の解析に基づく数値モデルの改良は予定通り進んでおり、水分や溶質、温度変化にともなう窒素の態の変化も数値計算で再現できるようになりつつある。また、これらの実験・数値解析から、凍結・融解過程にある水分移動機構を明らかにするために次年度取り組むべき課題と問題点、すなわち、融解過程の氷量変化と透水係数の変化、凍土の不均一融解や植生などの地表面状態の影響などを整理できた。すべてが予定通りではないものの、概ね順調といえる。 窒素動態に関しては、未凍結土を対象とした基礎実験が概ね終了し、溶存酸素や溶質移動と酸化還元の関係について多くの知見を得た。一方、酸化還元機構に関する海外の既往の研究は国内ではあまり紹介されていないが、これらとの比較から、凍結実験に組み込む前に非等温下の実験的知見が未だ不足していることが明確となった。次年度は、予定通り数値モデルとのリンクを進めるとともに、こうした海外の研究例の発掘、凍結過程につながる非等温場の実験を行う必要がある。 岩手大での圃場観測は、いくつかのレベルで平行して行えており、室内実験との比較が可能となりつつあるが、予定よりやや遅れている。一方、凍結深分布の観測については、関連学協会と連携した委員会をたちあげ、組織的なデータ収集や関係機関への呼びかけ、データベースの公開準備が進んでおり、順調といえる。
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今後の研究の推進方策 |
凍結過程の水分・物質移動については、室内実験・数値計算ともに、異なる土性や境界条件の検討をこのまま進め、成果を論文に公開する。また、融解浸潤過程については、これまでに整理された課題として、0℃近傍の土中の氷量変化と透水係数の変化、不均一融解が凍土の水分・移動に及ぼす影響を明らかにすべく、それぞれ特化した実験を次年度は行う。この際、本年度検討した水分、溶質、圧力センサーや、構築した検量モデルを活用する。そして、これら実験結果と現場観測に基づき、非平衡融解過程の不飽和透水係数モデルと窒素動態モデルを提案し、数値モデルにつなげる。この際、粒子表面の不凍水量や接触角、撥水性等に関してWashington大のDr. Fluryと討議し、凍土中の氷量の増減と不飽和透水係数の変化をより現実的あらわせるモデルの構築を目指す。凍結面下の酸化還元過程と窒素動態の変化については、特に非等温場における地表面近傍の酸化還元の分化を微少計測する。そして土中の化学変化-物質移動連結数値モデルHP1により、酸化還元電位や溶存酸素の変化と窒素動態の変化を解析する。野外観測については、現場データの解析をみなおし、問題点を整理したうえ、冬期の観測に備える。凍結深分布については、データの収集、電子化をすすめデータベースとして公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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