流域末端での水質保全のためには,流域内での物質輸送過程を把握することが不可欠である.本研究では,流域内の各土地利用(山地,水田,転作田,市街地,集落排水処理施設)からの降雨時および無降雨時の流出水と流域末端の水の流量と水質を詳細に測定することによって,各土地利用が流域末端の水質形成に及ぼす影響をより精度良く評価することを目的とした.こうした知見は,流域末端の総合的な水質保全のための各土地利用の水質管理のあり方に有用な知見を与えるものと考えられる. 平成25年度は,平成23,24年度に行った現地観測の補完を目的とした観測を行った.採水箇所は,日野川上流部の河川水,下流部の河川水,水田地区,転作田地区,山地流域,住宅地流域,集落排水処理施設である.分析項目は,窒素,リン,TOCに加え,各種イオンである.各地点において,実測された負荷量と流量の関係からLQ式を作成し,負荷量の経時変化を推定した.結果は以下のように整理できる. (1)各土地利用のLQ式を作成できたことにより,本地域での負荷量を推定できるようになった.降雨量と流量の関係をモデル化できれば,降雨量から土地利用ごとの負荷量および流域末端での河川水の水質特性を推定できる. (2)LQ式を用いることによって,とくに水田や転作田での排水管理によって,流域末端での河川水の水質特性がどのように変化するかを推定できるようになった.水田からの排水量を減らすことによって,多くの物質濃度は低下するが,硝酸態窒素濃度は上昇することがわかった. (3)複数のイオンを測定したことにより,各土地利用からの流出水の影響によって,濃度の高低だけではなく,イオンバランスが変化することが示された. 生態系にとって適切な水質管理のあり方自体は今後の課題であるが,流域全体を考えた場合の水質形成を推定するツールを構築できたと考えている.
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