研究課題/領域番号 |
23580331
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
九鬼 康彰 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60303872)
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研究分担者 |
武山 絵美 愛媛大学, 農学部, 准教授 (90363259)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 獣害対策 / 集落間連携 / 追い払い / サル / 防除柵 |
研究概要 |
本研究は獣害の深刻化と人口の過疎化・高齢化が進行する市町村を対象に,集落間連携による被害防除実施範囲の決定手法を開発し,その導入・実施モデルを確立することを目的としている。今年度は集落間連携による実施範囲の決定手法を開発する第一段階として,手法に組み込むべき指標の検討を行った。また今回は,被害防除の4つの方法のうちサルの追い払いと防除柵の設置を検討の対象とした。まずサルの追い払いの連携範囲の検討では三重県伊賀市を対象とした。平成23年12月に全277自治会長を対象とするアンケート調査を行い,サルの被害が発生している121集落を考察の対象とした。サルの被害程度をその出没頻度と頭数,人慣れ度から4段階に分類し,追い払いの形態と比較した。その結果,(1)被害レベルが高くなるほどサルの追い払いを集落ぐるみで行っている割合が高くなること,(2)集落ぐるみで行っている地区の半数が周辺集落との協力を希望していること,(3)被害レベルが高いにもかかわらず追い払いを行っていない,もしくは個人で追い払いをしている地区は集落ぐるみでの追い払いをできない地形や社会構造を有していること,が得られた。すなわちこれらの特徴を実施範囲の決定手法の一指標として取り入れる必要が明らかになった。一方,防除柵の設置については和歌山県有田川町のK地区において平成23年8月に全農家68戸を対象に行ったアンケート調査から,農家の集落間連携などに対する意識を把握した。調査の結果,日常的な管理作業の重要性について大半の農家が理解していること,しかし将来的な人手不足への対応方法,すなわち集落間連携やボランティアの導入についてはリーダー層でも認識が低いことが分かった。地区で予想される高齢化を踏まえ,防除柵については設置後の維持管理体制について学習するプロセスを取り入れる必要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では対象とする被害防除の方法として4種類を設定していたが,実際の検討はサルの追い払いと防除柵の設置という2種類にとどまったこと,そして集落間連携による獣害対策実施の検討を水田地域と樹園地地域の2箇所で行う予定であったが,樹園地地域の対象地で獣害対策に特殊性(有害駆除に偏重している)があり,これを決定手法にどう反映させるかが決まっていないこと,の2点が計画とは若干異なる部分である。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる平成24年度は,集落間連携による対策実施範囲の決定手法の開発を進める。対象地は引き続いて伊賀市と有田川町とし,それぞれで指標に用いるデータの収集を進めながら連携範囲の抽出を行い,前年度に行ったアンケート調査による地区代表者の意向との一致度から手法の妥当性を検討する。この際,対象とする被害防除の方法はサルの追い払いと防除柵の設置の2種類に限定する。というのも,対象地で今最も必要性の高い被害防除がこの2種類だからである。抽出結果を受けて,連携実施が可能と見込まれるエリアではできれば平成24年度中に住民説明会を実施し,集落間連携に対する理解と必要性を聞き取りやアンケート調査から把握する。また候補エリアでは数ヶ所に赤外線センサー型自動撮影装置を設置して加害動物の出没を記録するとともに,被害状況やそれまでの対策に関する聞き取りを行い獣害の状況を把握する。なおこれらの実施においては伊賀市役所と有田川町役場,そして三重県農業研究所の協力を仰ぐ予定である。一方で集落間連携以外の方法についてもその実施可能な条件を先行事例を調べて整理し,集落間連携に至らない場合の次善策としての候補エリアへの適用可能性を検討する。連携実施の候補エリアでの働きかけが功を奏した場合,最終年となる平成25年度は連携実施による被害防止効果と,参加者の満足度評価の把握を通して,集落間連携という取り組み方の有効性を検証する。もし候補エリアで集落間連携に同意を得られない場合は,それ以外の方法を適用し,その有効性や課題を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に使用予定の研究費はないため,当初の計画通りの執行を予定している。具体的には,集落間連携の実施が可能と見込まれるエリアにおける加害動物の生息数や分布状況を把握するための専門調査の委託,候補エリアで実施予定の住民説明会に必要な資料作成や聞き取りのための調査補助者のための謝金,加害動物の出没記録に用いる赤外線センサー型自動撮影装置の購入,などに利用する予定である。
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