研究課題/領域番号 |
23580331
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
九鬼 康彰 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (60303872)
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研究分担者 |
武山 絵美 愛媛大学, 農学部, 准教授 (90363259)
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キーワード | 獣害対策 / サル / 追い払い / 狩猟者 / ローカルナレッジ / ワークショップ |
研究概要 |
1.水田地域でのサルの追い払い実施を妨げる要因の解明(九鬼) 三重県伊賀市を対象にサルの被害対策として追い払いを計画的に導入する上での問題点について,その社会的要因と物理的要因を検討した。社会的要因の検討では,組織の意思決定モデルをベースに追い払いを行っていない23集落への聞き取り調査を実施し,解決意欲の弱さや被害の偏りといった問題の認識段階,追い払いという手法への評価段階,人手不足という実行段階にそれぞれ追い払いに至らない原因があることが分かった。一方物理的要因では追い払いを行っている16集落への聞き取り調査等の結果から,集落内の孤立した里山や河川の他,イノシシ・シカ用の柵が効果的な追い払いの実施を阻害していることが明らかになった。 2.獣害対策の計画的実施における狩猟者の役割(武山) 狩猟活動の継承における人的資源の現状と課題の把握を目的に,和歌山県内4旧町の狩猟者にアンケート調査を実施した。その結果,免許初取得後20年が経過した狩猟者には銃猟者が多く,グループ銃猟の成立に不可欠な人的資源が含まれることが明らかになった。そして,ベテラン銃猟者の人的資源管理や狩猟に係るローカルナレッジの共有,新規銃猟免許取得者と既存狩猟グループのマッチングが必要であることを指摘した。 3.果樹地域での獣害対策の計画的実施の実践(武山) 愛媛県上島町上弓削地区を対象に,センサーカメラを用いた動物行動調査と地域住民との協働による土地利用調査を実施した。その中で鳥獣害対策ワークショップを開催し,調査結果の報告と狩猟者によるくくりわなの説明,イノシシの生息痕跡を回る集落点検を実施した。その結果,非農家の参加も得られ,鳥獣害対策に対する合意形成を図ることができた。また今年度末には30名以上の地域住民が協力して谷間の農地等を囲む柵の設置を行い,ワークショップ手法による学習の有効性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では獣害対策の一つである被害防除の計画的実施範囲として集落から旧村レベルを想定し,現場でのワークショップの実践等も伴いながら,その計画的な導入手法の確立を目指している。今年度は対策の導入に必要な下記の条件について解明することができたことから,概ね順調な進捗状況にあると判断できる。 1.サルの被害対策を計画的に実施するために必要なのは,集落レベルの場合,被害に対する意識を均等化することや客観視化させること,そして追い払いという手法に対する学習の導入である。 2.サルの被害対策を計画的に実施するために必要なのは,集落レベルの場合,予め追い払いの阻害要因となり得る地形条件を改善することと,他の加害獣対策との調整を行うことである。 3.イノシシの被害対策を計画的に実施するためには,旧村レベルにおいて,狩猟(有害捕獲)という被害防除以外の手法を組み合わせることが重要で,そのためには経験が豊富な狩猟者による経験の浅い狩猟者へのナレッジの移行が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる次年度は,研究計画全体のとりまとめを行う。ただし当初の計画では集落間での連携による対策の実施を選択肢の一つとして想定していたが,これまでの取り組みの結果,いずれの対象地においても,住民の意識が集落を越える範囲まで至っていないことから,対策の実施範囲を集落レベルに絞り,計画的実施プロセスの確立を図ることとする。 具体的には水田地域でのサルの被害対策において実施を妨げる要因を除去する試みを行って,対策の実施効果の向上と住民意識の変化を確認する。また,イノシシやシカ対策としての柵がサル対策,特に追い払いにおいては効果を下げる要因になっている点について,トレードオフの関係を緩和する方法を検討し,今年度得られたすべての阻害要因の解決策を明らかにする。これらによってサルの被害対策の計画的な実施方法を確立する。 一方果樹地域でのイノシシ対策の計画的実施方法の確立に向けては,今年度ワークショップ等を導入して対策を実施した対象地区において効果の検証を行い,手法の有効性について評価する。 最終的に,これら二つの地域での知見をまとめ,集落レベルでの被害防除の計画的実施手法を提案する。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の推進方策に則って当初の計画通りの執行を予定している。すなわち対象地区での現地調査を複数回行うため,かつそこで得られた各種の情報を整理・分析するために相応の旅費と謝金を充当する予定である。またデータ保存用の記録媒体の購入にも消耗品費として相応の額を充当する。さらにワークショップでの配布資料の作成や研究成果の公表のための印刷代や投稿料にも相応額を充当する予定である。
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