研究課題/領域番号 |
23580333
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
多田 明夫 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00263400)
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キーワード | 総流出負荷量 / 区間推定 / 重点的サンプリング / TOPMODEL / 高頻度モニタリング |
研究概要 |
平成24年度の研究実績は以下の通りである. (1)水質モニタリングに関して: 水質データの高頻度モニタリングに関して,前年度より引き続き,15分間隔でのカリウム,ナトリウム,塩化物イオン濃度の連続観測と,10分間隔の後方散乱式濁度計による濁度観測を実施している.これに合わせて平成24年6月より,10分間隔の積分球式濁度計での観測も追加している.さらに自動採水機により2日に1度の定期採水と洪水による水位上昇時のオポチューニティな採水も実施し,これらについては溶存ケイ酸濃度とイオンクロマトグラフィーによるイオン分析,SS濃度分析を実施している.これらのデータは相互の検証当にも利用されている.積分球式濁度計は,後方散乱式よりより高い線形性をSSと有していた. (2)水質モデル開発に関して: 本年度は準分布型TOPMODELの土層水分貯留部を1要素追加した修正モデルによる流出解析を行うとともに,Godseyらによる土壌水分-水質濃度モデルを組み合わせて,水質濃度変動の数値解析モデルを構築し,これにより溶存ケイ酸とナトリウムの濃度計算を行った.計算値と観測値の適合性は,主に流出計算の再現性に左右されることがわかった. (3)総流出負荷量の推定に関して: 元々の本研究の目的である集水域からの総流出負荷量推定に関しては,大きな進展があった.これまで種々の負荷量推定のための計算法を検討してきたが,総流出負荷量推定値における偏りは実はこれら計算法に由来するのではなく,大部分が水質試料のサンプリング方法に起因していることが明らかとなった.実際にSALT法と呼ばれる,一種の重点的サンプリング方法を採用すれば,バイアス修正法を施した負荷量算出法との組み合わせで,ほぼ適切な区間推定が実施できることが明らかとなった.計算手法の工夫だけでなくサンプリング法の工夫で研究目的がほぼ達成されることが明らかになった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の元々の研究目的は,集水域からの総流出負荷量を適切に推定する方法の開発にある.そのために,これまでの筆者らの研究成果を元に,より偏りの少ない負荷量の推定方法,例えば従来利用されてきたLQ式などのレイティングカーブ法に加えて,よりパラメータ数の多い分布型の水文モデルをベースとした水質水文モデル,Nearest Neighbor法などのネットワークモデルにより,偏りの小さな推定値を得ることとしたものである. 実際に平成24年度には水質モデル開発までを実施し,あわせて総流出負荷量の区間推定の研究も並行して行ってきたわけであるが,研究実績にも述べたように,この研究目標は,より詳細なモデルの導入などによる負荷量計算法の工夫によるのではなく,むしろ計算方法は,これまでに様々な研究により工夫されてきたバイアス修正を行えるような方法であれば良く,それよりもサンプリング方法でほぼ達成されることが明らかになった.すなわち,負荷量期待値の大きさに応じて標本抽出を行う重点的サンプリングを採用すれば,複数の負荷量算出法でより適切な区間推定が実施できることが明らかとなった.特にThomasが提案した負荷量計算法に基づけば,ほぼ満足な区間推定が可能であった.これは溶存態と懸濁態の複数種の項目で確認された. このように,目標の達成手段は当初計画で想定した手法ではない方面から実現されそうであるが,目標そのものは達成される見込みがついたこと,またそのような成果はおそらく世界でも初めてであろうこと,さらにサンプリング方法も含めて簡便な負荷量算出式と呼べることとサンプリング方法自体が現実に実現可能な簡便な手法であることから,研究の進捗状況は当初想定以上である.ただし,成果の公表が遅れ気味であることから,総合的にみて達成状況は予定通りと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方向は,最終年度ではあるが,最終的な研究目標の達成の目処がついたために,当初の計画案から大幅に軌道を修正する. (1)水質モデルの開発について: 平成25年度に開発した水質水文モデルであるが,当初はこれに不確からの評価のためのブートストラップ法を組み合わせ,推定負荷量の区間推定まで実施する計画であったが,これを中止する.負荷量の計算方法は,他の簡便な計算方法を採用することとする. (2)簡便な負荷量予測式について: これに関しては,以下の二段階で研究を遂行する. (2.1)重点的サンプリング法と簡便な負荷量算定式の組み合わせによる総流出負荷量の区間推定の最終点検と成果報告: 対象項目を溶存態イオン3項目と懸濁物質濃度とし,これらの総流出負荷量の区間推定を重点的重点的サンプリング法と簡便な負荷量計算法(バイアス修正項付きLQ式,Thomasの計算法,Beale比推定法)によって行う.あわせてこの成果を論文公表する.また重点的サンプリングの現実的な実施方法を提案し,検証する. (2.2)定期データに対する区間推定の改良: 現在のところ,たとえ毎日1回のような比較的高頻度であっても,定期的なサンプリング集団に基づいたのでは,上記手法を適用しても適切な区間推定が実施できないことが予備検討で明らかとなっている.この原因を探り,一般的に収集が実施されている定期的なデータにもとづく,適切な区間推定法について検討を行う. 少なくとも(2.1)の満足な成果見込みは確実であり,これで当初研究目標が完全に達成される予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究経費の主な利用途は以下の通りである. (1)研究成果の公表に関して 研究成果の公表は,国際学会での発表と論文公表を通じて行う.このための交通費と論文印刷代などで過半の予算執行を予定している.また,計算と論文作成の環境整備に関連して,小型計算機を1台購入予定である. (2)水質のモニタリングに関して 当研究では奈良県の山林にて継続して水質データを蓄積する必要があるが,このための機材の修理・更新や,バッテリーなどの消耗品の更新,さらに室内分析のための消耗品の購入などを欠くことができない.このために予算の1/3程度をこれに充てる計画である.
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