当該研究課題の当初の目的は,流量と水質濃度の高頻度連続観測データに対して,汎用性が高く偏りの小さな簡便なモデルを提案し,これを元に集水域の流出負荷量の偏りのない推定法の確立に役立てるものであった.この研究課題の前提として,1年などの特定の長期間における集水域からの物質の流出量である総流出負荷量の推定法が確立されていないことがあった. このため奈良県の山林流域における溶存態と懸濁態の複数水質項目の高頻度モニタリングの実施,水質モデルシミュレーションにより,(1)モデルの系統誤差を減ずることができたとしても,流出負荷量の区間推定は十分満足できるものとならず,この結果流出負荷量の推定量も必ず偏りを有すること,(2)これまで提唱されてきた高頻度の水質シミュレーションを可能とする様な水文水質数値モデルを用いたとしても,かえって水質濃度のシミュレーション再現性は低下する場合があること,である.特に(1)の知見は初期の課題設定に関して抜本的な問題提起をするものであった.これを受け,研究期間の中央で課題設定を見直した結果,遂に不偏な流出負荷量の推定法とその既存サンプリングデータへの援用法を確立するに至った. 結局負荷量の推定の問題点はモデルの表現力にあるのでなく,流出負荷量という積算量の計算法の非効率性にあった.すなわち,効率的なモンテカルロ数値積分の一つである重点的サンプリングを負荷量推定に利用することで,適切な流出負荷量の区間推定法を実現することができた.併せて,既に収集された水質・水量データに対して同手法を援用することで,偏りのない流出負荷量を得ることも可能となった. この成果は非常に重要で,初めて流出負荷量の推定法の問題点を数学的に統一的に説明することに成功したばかりでなく,面源原単位の見直し,離散的流量比例サンプリング法の必然的偏りの指摘など,影響範囲は広範である.
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