研究課題/領域番号 |
23580334
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田中丸 治哉 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (80171809)
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研究分担者 |
多田 明夫 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00263400)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 流出負荷量モデル / 多目的最適化 / タンクモデル / 妥協計画法 / 水質観測 |
研究概要 |
流出負荷量モデルの多目的最適化に先立って,代表的な長期流出モデルであるタンクモデルを対象として,妥協計画法による多目的最適化を検討した.これまでの研究では,直列4段タンクモデルの最適化に際し,妥協計画法によって高水・低水の再現性を両立させたモデル定数を効率よく探索することに成功している.これは,高水重視,低水重視の誤差評価関数をそれぞれ最小化して求められる理想解を目的関数空間上に設定した後,理想解との距離が最小になるような解を探索して,これを妥協解とする手法であるが,その適用事例は,永源寺ダム流域の1流域にとどまっていた.そこで,大迫ダム流域と青蓮寺ダム流域においても同様の解析を実施し,妥協計画法の適応性と得られた解の一貫性について検討した.その結果,高水重視,低水重視の誤差評価関数をそれぞれ単独で最小化したとき,大迫ダム流域と青蓮寺ダム流域においては,探索試行毎の結果にばらつきが生じたが,双方を両立させた妥協解においては,目的関数,パラメータともに試行毎のばらつきが生じにくいことが示された.この結果からは,妥協計画法を適用すれば,高水・低水の再現性を両立させるだけでなく,一貫した解が得やすくなることが示唆された. 一方,本研究の主たる対象流域である奈良県・五條吉野山林小流域において,雨量観測及び三角堰による流量観測を継続するとともに,フローインジェクションポテンショメトリー(FIP)オンサイト水質観測システムによる高頻度・長期水質観測データの収集を実施して,今後の解析に用いるデータを蓄積した.同観測システムによって,ナトリウムイオン,カリウムイオン,塩化物イオンが15分間隔で連続的に観測されたが,これらのデータに基づいて,年間総負荷量の区間推定を実施するための統計モデルと,そのモデルを適用する際に必要な水質観測頻度が検討された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の研究実施計画では,奈良県・五條吉野山林小流域における雨量・流量観測とオンサイト水質観測システムによる渓流水質データの収集,水質タンクモデルの計算プログラム作成と予備的計算が予定されていた.このうち,雨量・流量観測と渓流水質データの連続的観測は,当初の予定通り実施された.一方,水質タンクモデルの構築に関しては,同モデルの多目的最適化手法として妥協計画法の適用が予定されていたことから,水質タンクモデルの計算プログラム作成に先立って,妥協計画法の適応性に関する検討が実施された.具体的には,直列4段タンクモデルを対象として,妥協計画法による高水と低水の再現性を両立させた多目的最適化が実施された. 本研究の計画全体を考えれば,妥協計画法の適応性に関する検討も重要な課題の一つであるが,当初,平成23年度に計画されていた水質タンクモデルの計算プログラム作成には至っていないことから,現在までの達成度を「やや遅れている」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度も雨量・流量観測と渓流水質観測を継続的に実施し,できるだけ長期間かつ連続的な(欠測の少ない)データを収集する.水質サンプルも適宜採取して持ち帰り,オンサイト水質観測システムによる観測結果の検証を実施する. 一方,流出負荷量モデルとして,各流出成分と負荷量との関係を表すLQ式を設定した海老瀬ら(1979)の水質タンクモデル及び菅原のタンクモデルに水質成分の流出・蓄積過程を組み込んだ中曽根・中村(1991)の水質タンクモデルを採用し,これらの計算プログラムを作成する.次いで,過去に収集された水文・水質観測データと,新たに収集する予定の水文・水質観測データに基づいて,水質タンクモデルの多目的最適化を試みる. 海老瀬らの水質タンクモデルを例に取ると,同モデルはタンクモデルのパラメータとともに,直接流出成分や基底流出成分について,各流出成分と負荷量の関係を表すLQ式のパラメータを有する.これらを同定する方法として,(1)河川流出量に基づいてタンクモデルのパラメータを同定した後,負荷量データに基づいてLQ式のパラメータを同定する方法,(2)多目的最適化手法の一つである妥協計画法を用いて,河川流出量の再現性と流出負荷量の再現性をできるだけ両立させるパラメータを一度に同定する方法をそれぞれ検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度の収支状況報告書では,平成24年3月末日で支払い済みの経費だけが計上されたため,411,655円が次年度使用額となっているが,実際には3月末までに全て使用済み(物品費として発注・納品済み)であるため,平成24年度の実質的な研究費(直接経費)は,当初の交付予定額である1,100千円である. 平成24年度はこの1,100千円のうち,物品費に390千円,謝金に100千円,国内旅費に130千円,外国旅費に360千円,その他に120千円を割り当てる予定である.数値計算に必要なPCやソフトウェアについては,平成23年度に購入済みであるため,物品費は観測に必要な消耗品の購入に使用する.謝金は現地観測のための調査謝金である.国内旅費の多くと外国旅費の全ては成果発表旅費として使用する.その他の経費は,論文投稿料として使用する.
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