研究課題/領域番号 |
23580342
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研究機関 | 帯広畜産大学 |
研究代表者 |
佐藤 禎稔 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (90142794)
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キーワード | 農業機械 / テンサイ / ビートタッパ / CAD / CAE / 運動機構解析 / シミュレーション / 機械収穫 |
研究概要 |
北海道のテンサイ収穫は晩秋に行われるため,高能率な機械作業が求められ,その際不要な茎葉を除去するタッピング作業が必要である。慣行のビートタッパは,フィラーホイールがテンサイの根部地上高に接触して高さを検出し,リンク機構によってタッピングナイフを上下させて適切な高さで切断を行う。しかし,作業を高速化した場合,根部地上高の高さ変化に対してタッピングナイフの追従性が低下するため,高速化の障害となっている。そこで,本研究は3D-CADとCAEを利用してコンピュータシミュレーションによって高速・高精度作業に対応する新たなビートタッパを開発することを目的とする。 1) 供試したCAEソフトの運動機構シミュレーションの解析性能を検証するために,昨年度製作したタッピング動作シミュレータを利用して供試したビートタッパの地上高変化に対するタッピングナイフの動作をハイスピードカメラで撮影し,その挙動を数値化した。また,供試したビートタッパの3Dモデルを利用し,CAEソフトで運動機構をシミュレーションしてその追従性を解析した。シミュレーション結果と供試した実機の挙動を比較した結果,作業速度によってCAEに設定する反発係数を考慮するなどの検討が必要であるものの,供試した3D-CADとCAEの妥当性が検証できた。 2) 供試した実機の高速化の障害となっているタッピング機構の問題点をCAEソフトで明らかにするために,種々の作業速度,反発係数およびバネ定数などの機構部品のパラメータを変化させ,コンピュータシミュレーションによってその影響を解析した。その結果,慣行のビートタッパのタッピング機構は主に4節リンクとバネによって構成されるが,これに新たにダンパ等の機構を追加することで,追従性が向上する知見が得られ,高速高精度化に対応する次世代型ビートタッパをバーチャル的に改良・開発する方向が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度はタッピング作業の圃場調査を行い,作付け条件や作業速度など,タッピング機構の運動機構シミュレーションを行う上でのパラメータを把握した。また,3D-CADを利用してコンピュータ上に慣行のビートタッパの3Dモデルを構築し,テンサイの根部地上高に対するタッピング機構の挙動をCAEソフトでシミュレーションするための基本的な手法を開発した。また,シミュレーションの妥当性を検証するために,タッピング動作シミュレータを製作した。 慣行のビートタッパはフィラーホイールによってテンサイの地上高を接触式で検出してリンク機構によってナイフを適切な高さに制御して不要な茎葉を切断処理する。その動作は主にリンク機構に取り付けられている2種類のバネによって調節されるが,本研究では慣行のビートタッパをまず基本的なバネ定数のものに設定し,動作シミュレータを利用してその挙動をハイスピードビデオで分析した。また,構築した3Dモデルでも同様の条件を設定し,供試したCAEソフトの基本的な動作を検証した。さらに,ビートタッパを高速化するために各部の構造等を検討し,バネ定数やフィラーホイールが模擬テンサイに接触する際の反発係数などのパラメータを変化させ,供試した実機と挙動を対比しながらCAEによる運動機構解析手法を検討した。 つぎに,高速化に対応するための種々のバーチャル設計を実施した。実機の場合,従来のバネに加えてダンパ機構を新たに取り入れることによって,これまで以上の作業速度でも,テンサイの地上高変化に対する追従性の向上が可能であることがシミュレーションによって明らかになり,今後高速高精度化に向けた次世代型ビートタッパ開発の基礎資料を得ることができた。 以上のように,本年度計画していた研究計画に比べて若干不十分なところもあるが,ほぼ予定通りに実施しており,最終年度に向けた進展につながるものと自己評価される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果から,供試した3D-CAD/CAEによってある程度慣行のビートタッパの高速化の障害となっている改良点等が明らかになった。そこで,最終年度である平成25年度は高速高精度化に対応する次世代型ビートタッパについて,3D-CAD/CAEを利用してバーチャル的にコンピュータシミュレーションを行って改良のための焦点を絞り設計開発を行い,種々のパラメータを設定してその効果を確認する。さらに,これらの結果を踏まえて実際に新たなビートタッパを試作し,タッピング動作シミュレータを利用して室内実験によってその挙動をハイスピードビデオで撮影し,タッピング機構の動作を分析して改善効果および問題点等を評価する。 つぎに,開発した次世代型ビートタッパを実際の圃場等で高速作業性や作業精度などについての評価試験を実施し,本研究の農業機械の開発手法の妥当性を総合的に評価・検討する予定である。 また,本研究で得られた研究成果を農業機械メーカーなどに紹介し,農業分野での新たな開発手法の技術普及並びに指導等を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
北海道の畑作地帯で利用される農業機械のこれまでの開発手法は,長年蓄えてきた技術者の勘と経験を元に試作と試験を繰り返す手法が一般的である。しかし,通常の農作物は一年に一度しか収穫できず,開発期間やコストが増大する欠点がある。本研究は,これらの問題を解決し,高能率高性能な農業機械を短時間にしかも低コストに開発するために最新の3D-CAD/CAEソフトを利用することの可能性について検討したものである。その一例として慣行のテンサイ収穫作業を効率化するために,高速高精度化に対応する次世代型ビートタッパをコンピュータシミュレーションによって開発する手法を見出すことを目的とする。 平成24年度の研究計画では,CAEソフトを利用してコンピュータシミュレーションによって新たなタッピング機構を開発することを主な目的としており,そのための圃場条件を収集する旅費や運動機構解析のための謝金等の予算を計上していた。しかし,実験圃場が近くにあったことや解析等を夜間に自動的に行ったことなどから,特に旅費や謝金の項目で残額が生じた。 平成25年度は,本研究の最終年度であり,供試した3D-CAD/CAEによる次世代型ビートタッパのタッピング機構の開発改良が主な研究目的である。そこで,前年度残額となった予算を含めて,実際に試作機を開発するための鋼材や各種機械部品,特殊部品を製作するために要求の旋盤および各種工具類を利用する。また,当方で製作が困難な部品に関しては農業機械メーカー等に外注する経費が必要である。さらに,各種実験を実施する際の実験および装置製作補助の謝金,圃場借用料,圃場実験や資料収集等の調査旅費,機器運搬費用および研究成果を発表するための経費を必要とする。
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